秘色のエンドロール

十三不塔

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第三章 虹と失認

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 森下にご馳走になった純米酒『狭霧』が良い気付け薬になったようで、奥村の意識は、その出血量にもかかわらず、随分とはっきりとしてきた。
「――雨知、いま何時だ?」
「二三時と五四分」気心の知れた部下が淡々と答えた。
「ならぼちぼち約束の時間だな」
 と奥村は懐からずっしり重みのある包み紙を取り出して、うっそりと立ち上がろうとする。それは先程、換気扇の奥から回収したものだった。
「座っててくれ。あんたがアリスのウサギだとしても、お茶会には行けない。何を仕出かそうとしているのか知らないが、余計な真似をするなら俺はこいつを使うことになる」
 カウンターの隣下から仄暗い銃口がこちらを睨んでいる。
S&Wの通称・百周年センチニアルのセカンドモデル。ハンマーレスのリボルバーでレモン絞り器スクイーザーという名称でも知られる。脇から銃を差し向ける森下を奥村はせせら笑った。
「そりゃ玩具だろう」
「その可能性も捨て切れないね。国家権力に実銃を向けるなんて、そんな馬鹿な真似をするわけがない。でも、万に一つでも本物だとしたら? 俺が後先考えない頭のおかしな人間でこの夜の静かな平和だけを望んでるとしたら?」
「平和だって? 笑わせるな」と奥村。
 ぼくが調べますよ、と雨知が身を乗り出して、森下の手を取ろうとするが、奥村に抑止された。
「やめとけ、もう時間がない。好きにさせるさ。カウントダウンを」
 命じられた雨知は腕時計を見ながら、6、5、4‥‥と静かに唱えていく。
 奥村は無造作に包み紙を剥ぎ取った。中身は奥村と銅音と死んだひとりの男だけが知っている小さな銃だ。かのマハトマ・ガンジーを射殺したというベレッタ。血塗られた歴史を秘めた回転式拳銃。それが背徳の間に照準を合わせる一方、森下の絞り器スクイーザーは奥村の心臓へ銃口を向けている。
「やめるんだ」と森下。
「本当に俺を止めたきゃ、さっきの酒に何か仕込んどくべきだった。そうだろ?」
 2、1‥‥十二時です、と雨知が言った。
 ――カチ。
 森下が動いた素振りもない。眼に見える現象としては何事も起こらなかったが、雨知は誰かが引き金を引いたのを耳にした。しかし銃声はない。
 何も起こりなしなかった。見た目には。
「終わったぜ」奥村は言った。
 森下ぁ、てめえの持ってる玩具が本当に玩具かどうかじっくり調べてやるよ、と雨知が凄みを効かせたが、「使わなかったんだ、どっちだっていい」と奥村はぴりぴりとした表情のまま言った。
「さて、あとはおまえら次第だぜ、銅音」
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