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第一章 追跡者たち
ウェス・ターナー
しおりを挟む変わり者のウェスにも、たったひとりスタンという友達がいた。
華奢でちびでおまけに強度の近視のウェスと違ってスタンは筋骨隆々という感じで、夏場には日除けになるほど勇壮な体格だった。
性格も正反対。
傲岸不遜かつ自由奔放なウェス。
一方スタンは世話焼きの八方美人で何かと気が利く男だ。歳のわりに老け込んだ容姿をしているのもウェスの尻ぬぐいばかりさせられてきた気苦労のためかもしれない。
ウェスが学校の旧校舎で大量の薬剤を混ぜ合わせて得体のしれない異臭をあたり8エスローの距離にまき散らした時も、シナイ湖に浮かぶ水上コテージに籠り祖父の残したガラクタと格闘した時も、スタンは事態の収拾に奔走した。
互いに十七歳にしかならぬ子供だというのに、スタンはまるで兄か親代わりといった甲斐甲斐しさで面倒をみている。
ウェスの方も、そんなスタンにだけは勝手気ままな心を預けているようだ。
けれど、今度だけはスタンがウェスを動かした。
「ウェス。玉座が王宮から逃げ出したって噂で世間はもちきりだ」
「ふうん」ウェスは湖面のボートに寝転んで雲を眺めている。
ボートは水面に揺蕩い、雲は流れる。すべては運動を止めない。
「おまえのじいさんが話してたの憶えてるか。ほら、古代機械ってやつだ」
「……古代機械」
ウェスは勢いよく起き上がった。
「見られるの?」
「ああ。シェストラ中を走り回ってるそうだ」
要領のいいスタンはシェストラの地図に玉座の目撃されたポイントを印してあった。
ウェスはそれを見るまでもなく、
「出発しよう。いますぐ!」と息巻く。
「待て」とスタンは穏やかにたしなめる。「どうやって追う?」
徒歩では無理だ。湖水地方にも馬は居るが、草原に住まう東部の民のように乗馬の技術が洗練されているわけではない。
「じいちゃんの光走船《ルカ》で追う。改造にはそうだな。一週間、いや、五日だ」
「部品代はいくらかかるんだ? どうせ俺の貯めた小遣いを当てにしてんだろう」
「じいちゃんが生きてた頃より、稼働効率が二割方増した。多少の曇り空なら支障なく走れるぜ」
ウェスは発明家で機械技師であったヴィンス・ターナーの血を色濃く引いた孫だった。王宮にまで仕えた祖父の名は地元はもとより国中に鳴り響いているが、ウェスは高名な祖父の若い頃と同じく機械狂いの問題児だった。
光走船《ルカタマラン》とは太陽光を動力に変える機構のことで、老ターナーが生前に残したメモ書きの理論からウェスが造り出したものだった。
船とは言ってもそれは地上を走る機械だ。ただ形状が双胴船に似ているため便宜上船と呼んでいるに過ぎない。
スタンはウェスがその祖父を超える才能を持っていると踏んでいた。
「……でも、夜は漕ぐしかないんだろ」
「ああ、だからスタンが必要なんだ」
“漕ぐ”とは光走船を手動を動かす方法だ。湖水地方の人間なら子供でもボートを自在に操ることができる。
光走船には、オールを漕ぐ動作が補助動力となるように設計してある。まるで湖面を漕ぐように光走機は進むのだ。
日照条件の悪い時には、この”漕ぐ”が重要な要素となる。
そして湖水地方広しと言えども、オールを繰ることに関してスタンの右に出るものはいない。なにしろシナイ湖に住まう水上遊民きっての漕ぎ手であることを、三年に一度のレースで証明してみせたのだ。
「一緒に行ってやりてぇが、長男の俺があてもない旅に出るなんて親父が許さないだろうな。こう見えて俺は稼ぎ頭だしな」
「ダメだスタン。僕と行こう」
ウェスの真っ直ぐな眼にスタンは弱かった。
ずるいぞ。昔からこいつはにはこうやって押し切られてきたんだ、とスタンはほろ苦く思う。
「おまえの家族にはボローもネファルもいる。僕にはスタンしかいない」
詰め寄られて、スタンは肩をすくめ、溜息を吐く。
「わかったよ。その代り、うちの舟の網をどうにかしてやってくれ。漁で使うにはボロすぎる。舟よりでかい穴が空いてちゃ、魚なんて取れやしねえ」
「よしきた。この世で一番丈夫な網を拵えてやる。竜だって食いちぎれないほどのやつだ」
「……よし行こう」
こうして二人の少年は最後の追跡者となった。
想像よりも遥かに困難で険しい旅路となることも知らず、少年たちは世界へ漕ぎ出す。
そこに出会うのが何者であろうと彼らは魅力ある謎として、つまりは手強くも親密な友として遇すであろう。
また、この世には決して友とはなれぬ存在があることを苦く理解するだろう。
いずれにしろ、彼らこそが四番目の追跡者だった。
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