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「……まあ、セシリア! なんて似合うんだい!」
メイド長のマルタさんが、パンパンと手を叩いて声を上げた。
私が身に纏っているのは、王都の最高級シルクではない。この地の羊の毛で織られた、素朴な赤いスカートと白いブラウスだ。
「ありがとうございます、マルタさん。……でも、本当に私が参加しても良いのでしょうか?」
「当たり前だろう! この冬、あんたがどれだけ村を回って手伝ったか、みんな知ってるんだよ。今日は無礼講さ」
鏡に映る自分は、どこからどう見ても、元気な辺境の村娘だった。
以前の私なら「こんな安っぽい布、肌が荒れるわ」と投げ捨てていただろう。けれど今は、この適度な重みと温もりが、何よりも誇らしかった。
屋敷の中庭では、大きな焚き火が焚かれ、村人たちが持ち寄った酒と料理が並んでいる。
バグパイプの陽気な音色が響き、人々が手を取り合って踊り始めていた。
「……セシリア。探したぞ」
人混みをかき分けて現れたのは、いつもの軍服ではなく、領民と同じ意匠の刺繍が入った革のベストを羽織ったレオンハルト閣下だった。
その少し着崩した姿に、私は思わず見惚れてしまう。
「閣下……! その、あまりに見つめられると恥ずかしいですわ」
「……ふん。お前こそ、その格好は毒だな。……村の男たちが、お前を誘おうと手ぐすね引いて待っているぞ」
レオンハルト閣下は不機嫌そうに眉を寄せ、私の隣にぴたりと陣取った。
その独占欲の強さに、胸の奥がくすぐったくなる。
「私は閣下のお供ですから。他の方と踊るつもりはありませんわ」
「……そうか。ならば、俺と踊れ」
「え……? 閣下、踊れるのですか?」
「……馬鹿にするな。これでも一応、社交界の教育は受けている。……まあ、この地の踊りはもっと荒っぽいようだがな」
彼は私の手を力強く引き、輪の中心へと誘った。
流れるのは、洗練されたワルツではない。土を蹴り、手を叩き、足並みを揃える、命の躍動そのもののような踊りだ。
「……っ、ふふ! 閣下、足が合っていませんわよ!」
「……うるさい。このステップは独特すぎるんだ」
私たちは笑いながら、夢中でステップを踏んだ。
冷たい風の中に混じる、焚き火の熱気と人々の笑い声。
かつての夜会では、誰よりも美しく見られることばかりを気にしていた。
けれど今は、髪が乱れるのも、頬が赤くなるのも構わずに、ただ「今」が楽しい。
「……セシリア」
踊りの合間、レオンハルト閣下が私の耳元で囁いた。
「……お前が笑っていると、この領地に本当に春が来たのだと、そう思える」
その言葉に、私の心は収穫祭の火よりも赤く燃え上がった。
身分も過去も関係ない。ただ、この人と共に笑い合える幸せを、私は噛み締めていた。
メイド長のマルタさんが、パンパンと手を叩いて声を上げた。
私が身に纏っているのは、王都の最高級シルクではない。この地の羊の毛で織られた、素朴な赤いスカートと白いブラウスだ。
「ありがとうございます、マルタさん。……でも、本当に私が参加しても良いのでしょうか?」
「当たり前だろう! この冬、あんたがどれだけ村を回って手伝ったか、みんな知ってるんだよ。今日は無礼講さ」
鏡に映る自分は、どこからどう見ても、元気な辺境の村娘だった。
以前の私なら「こんな安っぽい布、肌が荒れるわ」と投げ捨てていただろう。けれど今は、この適度な重みと温もりが、何よりも誇らしかった。
屋敷の中庭では、大きな焚き火が焚かれ、村人たちが持ち寄った酒と料理が並んでいる。
バグパイプの陽気な音色が響き、人々が手を取り合って踊り始めていた。
「……セシリア。探したぞ」
人混みをかき分けて現れたのは、いつもの軍服ではなく、領民と同じ意匠の刺繍が入った革のベストを羽織ったレオンハルト閣下だった。
その少し着崩した姿に、私は思わず見惚れてしまう。
「閣下……! その、あまりに見つめられると恥ずかしいですわ」
「……ふん。お前こそ、その格好は毒だな。……村の男たちが、お前を誘おうと手ぐすね引いて待っているぞ」
レオンハルト閣下は不機嫌そうに眉を寄せ、私の隣にぴたりと陣取った。
その独占欲の強さに、胸の奥がくすぐったくなる。
「私は閣下のお供ですから。他の方と踊るつもりはありませんわ」
「……そうか。ならば、俺と踊れ」
「え……? 閣下、踊れるのですか?」
「……馬鹿にするな。これでも一応、社交界の教育は受けている。……まあ、この地の踊りはもっと荒っぽいようだがな」
彼は私の手を力強く引き、輪の中心へと誘った。
流れるのは、洗練されたワルツではない。土を蹴り、手を叩き、足並みを揃える、命の躍動そのもののような踊りだ。
「……っ、ふふ! 閣下、足が合っていませんわよ!」
「……うるさい。このステップは独特すぎるんだ」
私たちは笑いながら、夢中でステップを踏んだ。
冷たい風の中に混じる、焚き火の熱気と人々の笑い声。
かつての夜会では、誰よりも美しく見られることばかりを気にしていた。
けれど今は、髪が乱れるのも、頬が赤くなるのも構わずに、ただ「今」が楽しい。
「……セシリア」
踊りの合間、レオンハルト閣下が私の耳元で囁いた。
「……お前が笑っていると、この領地に本当に春が来たのだと、そう思える」
その言葉に、私の心は収穫祭の火よりも赤く燃え上がった。
身分も過去も関係ない。ただ、この人と共に笑い合える幸せを、私は噛み締めていた。
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