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第八話 紳士な第二王子②
しおりを挟むフェリクス様は、優し気な感じとは裏腹で、案外積極的だった・・・。
ログネル王国女王から直々の申し出とはいえ、義理で会いに来ていたのなら、私が再度連絡するまで何もせず待っていたのではないかと思う。嫌々婚約者候補にされたのなら、相手からまず連絡しろよとか考えるのが普通じゃない?
だから、朝門のところにいて、私を認めた後、ヘルナル殿と変装用の名で呼ばれたときは正直なところ驚いた。とにかく今日帰ったら文を送って、と考えていた矢先、先制攻撃を受けた感じだった。さらに、買い物に付き合えってことでしょう?武器や防具とかを選んでくれとかだったらいいなあ。それ以外なら無理かも・・・しれない。それにこれは世間で言うところのデートなのでは?気の利いた言葉など言えるだろうか・・・。
何とか笑顔を作った。答える口調は高飛車にならないように気を付けた。
『ありがとうございます。私で良いのですか?』
『はい。ヘルナル嬢が良いのです』
その言葉に私はちょっとだけときめいた。
『ありがとうございます。そう言っていただきまして嬉しいです』
柔和な表情で私を見つめてくる。
『急なことで申し訳ないのですが、今日用事がないのであれば、どうでしょう、お付き合いいただけませんか?』
『はい、もちろん喜んでお付き合い致します』
私は強張る口を何とか開いて答えた。
彼はしばらく私を微笑んで見て、『ありがとうございます。断られたらどうしようかと思いました』などと言う。
背を向けて去っていく姿を見送りながら、私は今日ついてきてくれたロニヤを宿舎に走らせる。即カイサが飛んできた。
『今日授業が終わった後、エルベン王国のフェリクス・エルベン様とお会いしますから』
『左様でございますか』
『・・・何か見繕いたいとかで、私についてきて欲しいと言われたの』
そうカイサに今日の授業後のことを伝えたところ、カイサは笑顔でさささっと私の身だしなみを確認し、最後には笑顔でありながら、目が笑っていない様で二三歩詰め寄られた。怖くてこちらが思わず二三歩下がってしまう勢いだった。
『・・・なるほど、購入したいものがあると言われるのですね。それでお嬢様に選ぶのを手伝ってほしいと言われる・・・。これはお嬢様に選んでもらうのは口実で、本心ではお嬢様の好みを知りたいということなのでしょうね・・・。なるほどなるほど、・・・つまりお嬢様に何か贈りたいとかお考えなのでしょうね・・・。まあ、あの第二王子なら紳士でしたし、性格はお嬢様の好みでしょうし、私も嫌な感じはしませんでしたし・・・』
カイサの言葉は、最後のほうは小声で正確には聞き取れていなかったが。
『お、贈るにしても、べ、別の方に、お贈りになるのではない?』
『そんなわけありません!それなら、一人で選ばれるに決まっています!』
カイサと一緒に戻ってきたロニヤが横から鼻息荒く答える。カイサはおや珍しいとでも言いたげな表情でロニヤを見る。
『そ、そう?』
『当たり前です!』
ロニヤがさらにフンスと、鼻息を荒くした。
顔が赤くない。いつもは私と話すときは赤面して、話せないロニヤが興奮している。
たじろぐ私をカイサがじっと見つめてからおもむろに口を開く。
『ロニヤの言う通りでございます。あの王子がお嬢様に送りたいと思われたのでしょう』
『・・・』
私が気恥ずかしくなって黙り込むと、突然カイサが更に詰め寄る。
『よろしいですか!お嬢様も何かをお買い求めになるなら、絶対武器や防具などはその場で購入なさいませんように!その場で購入されるのは、絶対宝飾品や文具、小物類だけです!お分かりですね!』
『は、はい・・・』
気圧されて、何度も何度もコクコク頷く。怖い。
ということで、私は学園のある街ルベルティの商店街に来ている。前には私の護衛ではなく、王子の護衛二人が露払いのように進み、私と王子が隣だって歩き、その後ろを私の侍女カイサと王子の侍従、そして私の護衛ヴィルマルと王子の護衛が歩いている。
私は朝の門で私を待っていた王子の姿を思い出していた。その姿に少しだけ嬉しくなった。
あの、前の俺様王子のような自分勝手で人の都合を考えない人とは大違いだ。あの王子なら同じ場合では、まずこちらの都合を考えずに押し掛けてきて、一緒に来いとか言いそうじゃない?
隣を歩きながら、ちらりと横目で表情を伺う。
この人は穏やかなところと肌の白さと青い目が印象的な美男子だ。背の高さも比較的背の高い私と並んでも肩の上に目線が来るため、ちょうど良い高さ。まあ、比較的私も浮かれてしまっているが、この王子は私の好みだった。
アリオスト王国の街ルベルティの商店街をゆっくり歩いていく。最近安価で作られるようになった硝子の窓から商店の中を覗き込むことができる。
第二王子殿下は途中宝飾店、文具店、装飾店を数軒通り過ぎる。行く場所がわからない。きょろきょろしていた私が意を決して尋ねる。
「あの?」
私の言葉に足を止める。そして微笑みながら私を見た。
「はい」
「見繕うものとは何でしょうか?」
「・・・ああ」
顎に手をやり、一瞬だけ難しい顔になって考えた後、ポンと手を打つ。
「お伝えしておりませんでしたね」
「はい、聞いておりませんでした」
「・・・とある出来事がありまして、必要に迫られまして、武器を選んでいただければと思いまして」
「・・・はい?」
私の眉間の皴が深くなったと思う。
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