貴族子女の憂鬱

花朝 はな

文字の大きさ
31 / 63

第八話 紳士な第二王子③

しおりを挟む

 私は今言われたことが信じられなくて思わず問いかけた。

 「武器ですか?」

 「はい」

 きっぱりと答えた第二王子に何も答えられることができずに黙り込む。

 「・・・」

 「ダメでしょうか?」

 困ったように眉を上げて私を見てくる。

 どう答えたらよいのか・・・。人の武器など、選べるわけがない・・・。そんなにこだわりがあるわけでもないし。・・・確かに私が選んだものは刀だけど、それはたまたま出会って、魅せられたからだ。
 そんな私が第二王子殿下の武器を選べるのだろうか。・・・いや、待て。この話は実のところ、さほど切羽詰まったものではないのかもしれない。

 だが、後ろのカイサは動揺したのか、身体を動かしたようで、衣擦れの音がした。

 『・・・色気のない・・・』

 カイサがぼそりと呟いたのが聞こえる。

 うん、カイサは最初宝飾品か文具、小物を選べと私にさんざん注意していた。確かに私はそちら方面に疎い。自分に合うものも選べない。すべてカイサやエレンが私の装飾品を選び、私は差し出されたものを身に着けてきた。
ああ、そう言えば、碧色の宝石は案外気に入ったことはある。ただエメラルドはあまり気に入らなかったが、不思議な縞のあるマラカイトや淡い色のベリルなどは見ていて気に入って、一時期は宝飾品はそれらの石を使ったものを送られて、宝石箱が碧色一色になったほどだ。
 第二王子殿下の考えはわからないが、普通の貴族子女とともに来るとしたら、宝飾店か装飾品を扱うところではないだろうか。だが、結局のところ、第二王子殿下の申し出は少々淑女と来るには場違いなのではないだろうか。

 これは・・・受け狙い?それとも私に合わせた?・・・おかしいな、今日は一応派手さは抑えて目立たないもののはず。装飾品は身に着けていないので、選びにくかったとか?だから敢えて装飾品を外して、多分外務卿付き武官という肩書に合わせて、武器とか見に行こうと考えたとかかな?なぞだ。

 まあ、いいでしょ。第二王子は、剣の腕もなかなかのモノらしいと聞いている。だが、実際実力は見たことがないのでわからない。まあ、第二王子殿下の外見から似合ったものを選べば良いのだろう。

 「・・・わかりました。私の見立で良いのなら」

 私が答えるまでは不安そうな表情だったが、私が承諾すると笑顔になる第二王子殿下。

 「ありがとうございます。もうすぐなので参りましょうか」

 そう言って上機嫌で私に向けて手を差し出す。エスコートするつもりなのだろう。私が自分の手をのせると歩き出した。

 その店は大通りから枝分かれした細い道の突き当りに在った。第二王子は行き慣れているのだろう、

 甲高い槌音が近づくにつれ大きくなっていく。周囲には騒音に耐えかねるのか、建物はない。石材で建てられた工房は、横長の平屋で、外回りのポーチは木材で作ってある。入り口は丸いアーチ状で、木のドアが付いていた。営業中というつもりなのか、大きくドアは開いており、大き目の意志で閉まらないようにドアを抑えてあった。

 「・・・こちらですか?」

 「はい、そうです」

 「武器を扱う店には見えませんが・・・?」

 槌音が響くので、私は心持ち声を大きめにして話している。

 「この店はルベルティの街で一二の武器屋です。まあ、中に入っていただければわかると思いますが、鍛冶師なども所属しているため、工房も併設していますね。色々捜していて、ある時に評判を聞いて訪れたのですが、一目で気に入りまして、相当長居をしてしまいました」

 「気に入ったものがあったと?」

 「はい、あ、いえ、その時はなかったのですが、捜していたものが私用の物ではなかったので、結局購入できずに別のところで調達することになりまして」

 ・・・?今一わからない。

 「・・・えーっ、つまりですね、こちらへ来たのは間違いないのですが、私の捜しているものがこちらには扱っていないものでした。武器については並べてありましたので、その時は武器を色々見させてもらい、そのままこちらを出て、別の場所で調達をしたのです。こちらは武器しか取り扱わないと知らずに、武器ではないものを探しに来てしまったのです」

 「・・・そうでしたか」

 「そういうことです。では入ってよろしいですか?」

 「はい、入りましょう」

 私の返答に軽く頷き、王子殿下は私の手を取ったまま、私を中へと導き、続いて中に入ってくる。その流れる様な仕草に私は思わず戸惑った。エスコートが手馴れている。そう思い、私はその考えに思わずクスリと笑ってしまった。あの俺様王子なら我先に中に入ることだろう。

 カウンターには初老の男性が腰掛けており、そのひげ面を綻ばせながら口を開いた。

 「いらっしゃい」

 カウンターの奥には工房に繋がっているのだろうか、ドアが大きく開け放たれており、その奥からカンカンと槌音が響いてくる。

 「ああ、邪魔するよ」

 男性の言葉に、軽く顎をしゃくる様にしながら、第二王子殿下が答えた。

 「どうぞごゆっくり。もし聞きたいことがあれば、ご質問ください」

 中に入った私は、目の前に広がる多種多様な武器に目を奪われる。カイサには悪いが、私は淑女とは言えないのだろう、武器を見て気分が高揚してくる。あの槍は城壁の穴から押し出すには長すぎるとか、あっちの槍は下にとりつこうとする兵を牽制するのに使えそうだとか、この弓では距離が出ないだろうななど、私は並べてある武器を見ながら独り言ちた。添えていた第二王子の手などの存在は忘れ、足早に武器に近寄って顔を寄せて使い方を考察する。

 「・・・お嬢様・・・」

 カイサの声が聞こえ、我に返る。振り返ると渋い表情をしたカイサが私を睨むようにして立っていた。ダメだと言いたそうに首を横に振っている。

 「いや、これは、その・・・」

 「本当に武器が好きなのですね!これは良いものを探してくれそうです!」

 第二王子殿下はニコニコと笑顔になっていた。

 「・・・いえ、まあ、その、・・・我を忘れてしまいました。恥ずかしいことに、利用方法を考えてしまうので、武器には目がないのです。女らしくないとは思うのですが・・・、性分でなかなか直せず・・・」

 慌てて言い繕う私を見て微笑む第二王子殿下だった。

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

婚約者が番を見つけました

梨花
恋愛
 婚約者とのピクニックに出かけた主人公。でも、そこで婚約者が番を見つけて…………  2019年07月24日恋愛で38位になりました(*´▽`*)

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

処理中です...