貴族子女の憂鬱

花朝 はな

文字の大きさ
32 / 63

第八話 紳士な第二王子④

しおりを挟む

 エルベン王国のフェリクス・エルベン第二王子殿下は、泡を食っている私を見て静かに微笑んでいる。

 私は機を逸らす意思で、王子殿下を見て何とか口を開く。

 「そ、そう言えば、私に選んでもらいたいものがあるとのことでしたよね」

 「ええ、その通りです」

 「そろそろ、私が選ぶものは何かを教えていただけませんか?」

 私の言葉に、第二王子殿下は一瞬だけキョトンとし、そのあとすぐに頷いた。

 「・・・そうでしたね、まだお伝えしておりませんでしたね」

 第二王子は一方の壁に近づく。そのまま壁に掛かっている短剣を指さした。

 「このような守り刀を送りたい方が居るのです」

 「・・・守り刀?ですか?」

 「はい」

 守り刀・・・。うーん、送りたい相手というのは男性かな・・・。いや、私に聞いている時点で男性はないかな。とすると女性か・・・。女性用というと、短剣は大きくなりすぎてダメか。直刃の自害用のモノを選んで欲しいということか。実用品か?それとも装飾品で飾られたものが良いのか。

 「・・・私にお聞きになったということは、女性用のモノで間違いないですね?」

 私は敢えて口に出して確認する。まさか、どこかにいる恋愛対象の方に贈るものとか?私との話が出てきたので、その方を捨てるつもりとかなら、ちょっとその方に悪いと思う。その場合、私はこの目の前の方との間の話を断るべきなんだろうか。

 「その通りです。あなたには私と親しかった女性にお送りする守り刀をお選びいただきたいのです」

 親しかった?やはり付き合いのある女性を捨てるつもりとか?

 「・・・その方と、王子殿下との関係をお聞かせいただけませんか?それによってお選びするモノが変わるかもしれません」

 少しだけ迷ったが、やはり聞くことにする。いや、・・・多分、嫉妬とかじゃないと思うけど・・・。

 「ああ、私と仲が良かった方です。・・・臣下に昨年嫁ぎました姉です」

 最後の言葉は付け足しのような・・・。まあ、いいか。

 「お姉さまにですか?なぜ、また」

 「・・・そうですね、どう言えばいいでしょうか・・・」

 言い淀み、ちらりと壁に並ぶ武器を一瞥してから、息を吐く。

 「・・・姉は、臣下の王家の傍系に当たる侯爵家に嫁ぎました。・・・ああ、夫婦仲は円満ですよ」

 私の表情を読んだのか、第二王子殿下は苦笑する。
 
 「その姉に子が生まれたのです。その子に守り刀を送ろうかと思いたちまして」

 「・・・エルベン王国は生まれた子に守り刀を贈る習慣がありましたか?」

 第二王子殿下の言葉に首をかしげる。

 「それは、ログネルだけの習慣なはずですが?」

 「そ、それはそうなのですが・・・」

 なぜか歯切れが悪い。

 確かにログネルでは王国に住む者すべてが生まれた子に守り刀を送る風習がある。今は薄れてきているが、得体のしれない自然ならざるモノをログネルに住む民は、昔は畏怖していた。そのために子供を何か得体のしれない自然ならざるモノから守るようにと願いを込め、色々な形状の短剣や短刀を送っていたのだった。そしてこの風習の意義は現在も受け継がれ、ログネルの民は守り刀を送る。

 私など、毎年のように母か父が送り付けてきているため、守り刀だけで数十本もあるぐらいだ。私の場合は輝く宝石のついた装飾の凝った短剣が多いが、いつも身に着けているようにと言われて武器としては役に立たないが、短い刃の短刀を持っている。これは一歳の時に母と父から貰ったもので、一番長く私と共に居るものだった。

 当初はログネルという一族だけの風習だったが、支配された民がログネルの風習を真似るようになり、今ではログネルに住む民は出自に関わりなく、すべて守り刀を送るようになったといういきさつがある。
 ただ、この守り刀の風習はログネルにおいては一般的だが、他の国では一般的ではないはずだ。

 「・・・常に傍にいられるのであれば私が守りますが、これからは常に傍に居られるわけではありません。そういう時にログネル王国の風習を聞き及び、守り刀を送ろうと思いたちました」

 第二王子殿下の言葉はログネルの風習を知って、これから以降ログネルと同化しようとしているという決意のように思われた。そういうのであれば、別に異を唱えることでもない。

 「そうですか。・・・そういうことであれば、身を入れて選ばなければなりませんね」

 そうして私は壁に掛かっているもの、テーブルに置かれているものを吟味し始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者が番を見つけました

梨花
恋愛
 婚約者とのピクニックに出かけた主人公。でも、そこで婚約者が番を見つけて…………  2019年07月24日恋愛で38位になりました(*´▽`*)

四人の令嬢と公爵と

オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」  ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。  人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが…… 「おはよう。よく眠れたかな」 「お前すごく可愛いな!!」 「花がよく似合うね」 「どうか今日も共に過ごしてほしい」  彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。  一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。 ※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】今更、好きだと言われても困ります……不仲な幼馴染が夫になりまして!

Rohdea
恋愛
──私の事を嫌いだと最初に言ったのはあなたなのに! 婚約者の王子からある日突然、婚約破棄をされてしまった、 侯爵令嬢のオリヴィア。 次の嫁ぎ先なんて絶対に見つからないと思っていたのに、何故かすぐに婚約の話が舞い込んで来て、 あれよあれよとそのまま結婚する事に…… しかし、なんとその結婚相手は、ある日を境に突然冷たくされ、そのまま疎遠になっていた不仲な幼馴染の侯爵令息ヒューズだった。 「俺はお前を愛してなどいない!」 「そんな事は昔から知っているわ!」 しかし、初夜でそう宣言したはずのヒューズの様子は何故かどんどんおかしくなっていく…… そして、婚約者だった王子の様子も……?

白のグリモワールの後継者~婚約者と親友が恋仲になりましたので身を引きます。今さら復縁を望まれても困ります!

ユウ
恋愛
辺境地に住まう伯爵令嬢のメアリ。 婚約者は幼馴染で聖騎士、親友は魔術師で優れた能力を持つていた。 対するメアリは魔力が低く治癒師だったが二人が大好きだったが、戦場から帰還したある日婚約者に別れを告げられる。 相手は幼少期から慕っていた親友だった。 彼は優しくて誠実な人で親友も優しく思いやりのある人。 だから婚約解消を受け入れようと思ったが、学園内では愛する二人を苦しめる悪女のように噂を流され別れた後も悪役令嬢としての噂を流されてしまう 学園にも居場所がなくなった後、悲しみに暮れる中。 一人の少年に手を差し伸べられる。 その人物は光の魔力を持つ剣帝だった。 一方、学園で真実の愛を貫き何もかも捨てた二人だったが、綻びが生じ始める。 聖騎士のスキルを失う元婚約者と、魔力が渇望し始めた親友が窮地にたたされるのだが… タイトル変更しました。

処理中です...