貴族子女の憂鬱

花朝 はな

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第八話 紳士な第二王子⑤

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 私は店の者にも意見をもらい、短剣と短刀を合わせて三振りほどを何とか選んだ。それを第二王子殿下に示して、選んでもらうことにした。多く選んだのには、気に入る物が一つとは限らないとの考えと、複数人に送りかもしれないと考えたからだ。

 二つは束と鞘に日の光で光り輝く宝石がはめ込まれた短剣で、直刃のものと反りのあるもの。そしてもう一つが黄銅鋼で作られた鞘に繊細な銀の象嵌が施された短刀だ。片刃の短刀の方には刀身にも象嵌が彫り込まれている。今度は金の三振りともさほど長くはなく、完全に護身用としても役に立たないもの。このような短剣や短刀の造りは、最近増えてきたもののようで、多くはないが売れ始めているらしい。
 ちなみに私が贈り物として選ぶなら、迷わず短刀だが、第二王子殿下は多分反りのある短剣を選ぶのではないかと思っているのだが。

 ログネルの者である私にはなぜだかわからないのだが、店の者に言わせれば、昔はアルトマイアー大陸の西側の一部分を領するのみだったログネル王国が今やアルトマイアー大陸の約二分の一弱を領土とする大国ログネル王国の風習を知り、その恩恵にあやかろうとして購入する事が増えたらしい。その他にも得体のしれない自然ならざるモノへの恐怖から、身を守ろうと購入する者も居るようだ。まあ、解明できないことに恐怖する気持ちはわからなくはない。

 第二王子殿下がなぜか難しい顔をして選んでいるのを横目に、私は選んで回っていた時に気になったことを店の者に尋ねてみることにした。

 「ちょっとよろしい?」

 「はい、なにか?」

 「こちらの武器の象嵌や彫金は誰か別のところで行っているもの?」

 店の者の目が瞬く。口を開こうとして、ためらった。

 「この裏手で行っているのは鍛冶のみかどうか知りたいと思って。私が選んだ短剣や短刀には細かい装飾がしてあるし、相当細かな象嵌などが施された儀礼用の長剣などもあったからなかなか腕の良い職人がいると考えたのだけど」 

 店の者がしばらく困ったように頭を掻いている。言うか言うまいか迷ったのだろう。何か事情があるのだろう、と考えたときにようやく口を開いた。

 「・・・あれは鍛冶の師匠のお孫さんが趣味でやっているようなものでね。洒落てるとは思うが、実用性に欠けると師匠は言ってたな。そう言う俺も、装飾は要らないんじゃないかと思ってる。戦で人をたたっ殺す武器を飾っても仕方ない」

 この工房の者はあまり歓迎していないようだ。ああいった細かな作業は工程を複雑化し、それによって生産に時間がかかってしまう。それに装飾によっては強度が減ったり、重心が変わったりする。
受け入れられないと思うものは多いだろう。

 しかし私は今後、装飾が増えると思っている。それはなぜかと言えば、ログネル王国女王陛下には武力でアルトマイアー大陸の統一をするつもりはないというのがその理由だ。つまり戦がなくなっていくということだ。そのため戦に使用される実用性に富んだ武器と、儀式に使用される装飾性に重点を置いた武器とに分かれていくと思っている。

 国の方針を知り、ログネル王国ではむしろ戦が減ると考えている私は、象嵌や彫金の職人をログネルに集めて、それらの工房都市と呼べるものができないかと、密かに調べているのだった。良い人材が居れば、ログネルに移住してもらえないかと勧誘をすることもある。

 「・・・これにしようと思います」

 背後から声が掛けられ、足音が近づいてきた。第二王子殿下は送るものを決められた様だった。

 振り返ると、意外にも短刀を持っている第二王子殿下が居た。ある意味、予想を外してくる方だなと、私はふと思った。

 「・・・それを選ばれましたか」

 「はい、この繊細な美しさが良いかと」

 そう答えた第二王子殿下が、そのまま店の者に近づく。私もそれに合わせて向き直った。

 「・・・ありがとうございます。それでよろしいですか?」

 「この短刀に合った入れ物はあるかな?」

 「そうですね・・・。同じような装飾を入れるのですか?」

 店の者が考えてから、尋ねた。

 「出来ればそうしてもらいたいのだが」

 「・・・そういうことでしたら、お時間をいただくことになります。今装飾の入ったものはそろえておりませんので、装飾を入れたものに特別に作らせることになります」

 入れ物を揃えるのには時間がかかるようだが、第二王子殿下は簡単に了承していた。手招きされた殿下の侍従が、店の元と話し始めると、殿下が私の傍に立つ。

 店の外で何事か途切れ途切れに騒いでいるようだ。一瞬それに気を取られたときに、第二王子殿下が私を見て軽く礼をして口を開く。

 「ありがとうございました。おかげで良い物を贈ることができます」

 「お役に立てたのなら、何よりです」

 「一つ私の質問にお答えいただけますか?」

 第二王子殿下が改まった表情になる。

 何だろう。象嵌や彫金の職人を紹介してくれるのだろうか・・・?いや、さすがにそれはないか。それなら・・・。

 「ログネル王国は、現在のところエルベンに対して侵攻することはありませんね?」

 ・・・やはり少しでも心証を良く見せようとしているか。そう思った私が答えようとすると、店の外に立っていた第二王子殿下の護衛の一人が慌てて入ってきた。

 「で、殿下!申し訳ありません」

 「・・・何事か?」

 すっと目を細める第二王子殿下。

 「 キルシュネライト伯爵令嬢が!」

 ううん?誰?
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