腐れ外道の城

詠野ごりら

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終章

時代2

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「あくまでも拙僧は、元春様の世間話に応じただけである。なので、拙僧がお主の企みに乗ったなどと思い上がるでないぞ・・・」

 言い終わると八山はコロリと表情を変え、柔和な表情を少しだけ見せると。

「それはそうと甲四郎、樋野城を落とした後はどうするつもりじゃ」

「そんなことは今から決めていませんよ」

「左様か・・・あのぉアクルと申したか、猿の妹。アレを嫁にしてはどうだ」

 甲四郎はあまりにも突然なことにむせ返って、八山を睨んだが、とうの坊主はただ笑顔で甲四郎を見て言葉を続けた。

「お主は侍には向いておらん!山にでも入って足軽大将になるほうが性に合っておるのではないか」

 八山は乾いた笑いを浮かべながら、頭を撫で別室に去っていってしまった。
 

 斉藤側がどれだけの兵を裂いてくれるのかは分からないが、これで樋野攻めへの足がかりはついた。

 後は樋野の南端、平野を抑えている畠中信義との連携次第であるが、畠中も平野を死守することで精一杯のようで、自注に動ける状態ではなさそうである。

 甲四郎なりに考えを巡らせ、戦略を練り数日が過ぎると、山名城から一人の男が寺を訪ねて来た。

 男の名は由出成政(ゆでなりまさ)。
 年の頃なら甲四郎とそうは変わらなそうであるが、流石大領主佐藤家の家臣だけあって、鮮やかな若竹色の着物と明るい小豆色の折り目正しい袴で、八山の前に現れた。
 由出正成は、大国山名を背負っているのは自分だと言わんばかりに、胸を張りやや顔を上向きにさせ、相手を見下すような目をしていた。
 来客の知らせに本殿に入った甲四郎に、由出はそのままの蔑む視線で、甲四郎の汚い身形をみまわした。

 甲四郎はその汚物を見るような視線を感じながらも、由出の前に正座し、深々と頭を下げた。

「栗原甲四郎に御座います」

「ふん」
 ただそれだけ発すると、由出は八山の方を見て、人が変わったような声色で話しを続けた。

「八山様、先ほどの件で御座いますが、我が兵は千名ほどになりますが、このお寺と麓の村を宿営地とさせて頂きます故、なにとぞよろしくお願いいたします」

 甲四郎は頭を下げながらも、部隊の総数を頭の中ではじき出そうと思考した。

(この由出が千?黒田高丞様がの民が五百、その中で戦働きできる人数は、多く見積もって二百。畠中信義様もすぐには動かないだっろう)
 八山と由出が宿営について、細かい話を続けているなか、甲四郎はさらに思案を巡らせる。
(こうなればどうしても市蔵の忍山を動かしたい、だがそれには、最初の侵攻を盛大にせねば、忍山の連中も動くまい・・・やはり初戦は、高丞様の領地、谷川を取り、黒岩ぐらいを抑えるのがやっとか)

 などと考えを巡らせていると、由出が何やら甲四郎に向けて言葉を発した。
 多分「もう下がってよい」といったのだろう、甲四郎は正座のまま半歩ほど後ずさりすると立ち上がり、頭を下げつつ又半歩後ろへ下がった。

「では私は、黒田高丞様と合流し、由出様をお待ちいたしたいと存じます」

 甲四郎は頭を下げていたので、ハッキリは分からないが、また由出の嘲るような鼻息がすると、甲高い声が甲四郎の後頭部を突き抜けていった。

「栗原、念押しするが、我らが合流するまで決して動いてはならぬぞ、そのこと黒田にもしかと伝えい」

 甲四郎は「ハッ」とだけ短くいうと、部屋をでってそのまま黒田高丞のいる国境の村へ向かった。

 
 黒田三郎高丞は、前にも述べたが、背丈が大きく胸板も厚く、一見すれば力士のような体型で、甲冑などを着せれば立派な荒武者風に見える。が、どうしてこの方、自分に自信が無いのか、家臣の表情ばかり気にかけ意見も言わずオドオドと首を左右に動かしたり、立ったり座ったりと落ち着きが無い。

 甲四郎が高丞と合流したときも、甲四郎の顔を見つけるなり借りている民家の濡れ縁から飛び降り、こちらへ駆け寄っていた。
 
「いやいや栗原殿、いかがなされた」
 季節はもう夏になり始めていた。
 汗ばむ暑さを紛らわす為なのか、高丞は片手にかじり掛けの胡瓜を持ち、水浅葱染めの着流しで甲四郎の方へ向かってきた。
 その姿はどうみても現地の百姓にしか見えず、甲四郎も思わず吹き出しそうになってしまったが、大きな図体で膝丈ぐらいしか無い着流しの男は、構わず食べかけの胡瓜を甲四郎に突き出すと。

「甲四郎殿、この野菜を知っておりますか、なかなか喉を潤してくれますぞ」

 戦国初期の日本ではまだ希少だった胡瓜が、この田舎にどう伝わって来たのかは分からないが、山名の一部や甲四郎の生まれ育った樋野の黒岩でも一部の農民がこの野菜を栽培していたので、甲四郎も何度かそれを口にしたことはあった。

「いえいえ今日はご遠慮いたします・・・此度は折り入って高丞殿にお願いがあり参りましたので」

 甲四郎は柔らかい口調で、高丞が借りている民家へ誘導すると、高丞の家臣数名を呼び、会談が始まった。

「簡潔に申しますと、山名から出る軍勢は、千にもとどきますまい」
 甲四郎の見積もりでは由出成政は自分を大きく見せる為に「二千の軍勢を用意できる」などといっていたが、あのような人物に限って、実際の力はいっている半分もなかったりするものである。
 しかし、今回は斉藤元春の後ろ盾もあるので、多く見積もって八百以上、斉藤元春がどれだけ由出に対し期待感と将来性を見込んでいるかによって、千近くになることもありえるかもしれないが、甲四郎の見積もりでは七百人に達するかどうかだろう。
 甲四郎はそのことを包み隠さず高丞と、高丞の家臣に告げた。

「なるほど、その由出なる人物の軍勢が仮に七百として、ワシ等がいま出せる人員が三百三十ほどですので、僅かながら千は超えますな、そして谷川を取り戻せば我が兵は五百にはなろうかと存じます」

「高丞殿は谷川をとった後も我らと戦ってくれると申されますか!」

「当たり前でありましょう、この黒田三郎高丞とその家臣は、栗原様の家臣となり最後まで働く所存でござります」
 高丞は大きな身なりを折りたたむと、その家臣も揃って甲四郎に頭を下げた。

「では、皆に申しまする!」

 甲四郎は自分に頭を下げる高丞等に、大声を張り上げた。

「オレ・・・いやっ、ワシは一兵士としてでなければ動けぬ性分故、今ここに黒田三郎高丞殿を頭といたしたい、というか、それでなければオレは戦が出来ぬ、高丞殿!どうかオレを助けると思って大将になって貰えませぬか!」

 甲四郎は高丞の前に腹ばいになるように平伏すると、高丞は「わかり申した」とだけいうと、甲四郎の頭をあげさせ。

「栗原殿、共に谷川ととり、樋野城の清親を討ち払いましょうぞ」

「では、これより私のことは甲四郎とお呼びくださいませ」

 すると、高丞は深く頷いて甲四郎の目を見詰めた。


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