腐れ外道の城

詠野ごりら

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終章

時代3

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 それから三日後。
 由出成政等一隊が黒田高丞のいる村へ現れた。

 一隊は皆戦の装備で、由出は颯爽と馬に乗り、陣羽織姿で槍を持ち、村に入って来たがどうもその表情は不機嫌そうである。

 由出は甲四郎を見つけると、下馬もせず不機嫌そうにな視線を向けた。
 
 予想していたとおり、その隊列は明らかに千名を下回っている。そのことが由出の表情に表れて居ることは明確であった。

「栗原、お主の言いたいことを先にいってやる、此度の手勢は五百じゃ・・・」

 いいたいことがあれば言って見ろ、といわんばかりの口調でいうと、由出は下馬し、甲四郎の真横まで顔を持って行き「黒田高丞は何処じゃ案内せい」と吐き捨てるようにいった。

 八山の寺へ送られた軍勢は千を優に超える人数であったが、寺に揃った兵員は、全てを出陣させたい由出の言葉にも。

「元春様から全てを動かすことは相成らんと申し使っております故」

 と、テコでも動こうとはしなかった。

 仕方なく五百の兵員を引き連れ、この村まで来た由出の機嫌が悪いのも仕方が無いといえば仕方が無いことであった。

 不機嫌なまま高丞との顔合わせを済ますと、甲四郎は気乗りしない由出から軍勢だけを借り受けると、そのまま谷川に行軍して、呆気なく谷川を奪い返してしまった。

 不機嫌だった由出も、狐につままれたようではあったが、すっかり上機嫌になり。

「樋野のような田舎者は、手応えがないなぁ」

 後からやって来た由出は、谷川の屋敷に上がり込むなり、高笑いをした。

 元々谷川を抑えていた者達は、その土地をさほど重要に思っていなかったらしく、甲四郎が以前から手配していたマシラ等の偵察によると、足軽衆らしき者共が土地を見張っているらしく、清親の家臣らしき者は三日に一遍ほど監視に来る程度で、守りは大甘らしい。

「アッシ等足軽衆は金に見合った仕事はするが、命は張らねぇ、栗原の大将が攻めてくりゃ、蜘蛛の子散らしたみてぇに逃げていきヤスぜ」

 マシラの見立て通り、由出と高丞の連合軍が攻めて来たとみるや、谷川を守っていた足軽衆は散り散り逃げ、清親の手の者も数十人ほどいたが、人数的にかなわないとみると一目散に山の中へ消えていってしまった。

 といった経緯で谷川を奪取出来たのであって、由出の働きなど無いに等しかったのである。
 だが由出成政の増長は、夜に開かれた宴席の場で最高潮に達した。

「栗原よ、このぶんでは貴殿の故郷、黒岩も数日中には取れるかのぉ」
 
 甲四郎は由出に酒を注ぎながら目を伏せ。

「それはどうでしょうかのぉ、黒岩を納める井藤十兵衛は腐っても本田清親の重臣であり、ある程度戦を心得た男ですし、黒岩は断崖の上にある村であるので、安易に攻め入れば、樋野城から清親の本隊が後詰めにやって来ましょう、由出様ほどの御仁に申すのは恐れ多いのですが、地の利により攻め方も変わりますのでな」

 由出はあまりにも冷静な甲四郎の言葉に少し圧倒され、その中に由出への嫌みが多分に隠されていたことにも気づかず、鬱陶しそうに甲四郎を下がらせた。

 呆れた様子を表に出すこと無く席に戻った甲四郎の横へ、黒田高丞がやって来た。

「此度は栗原殿のおかげで谷川を取り戻すことが出来、なんと感謝申し上げてよいのやら」

「いえいえ、これからは高丞殿は谷川の御領主でありますので、私など甲四郎とお呼びいただき、家臣のようにお使いくだされば幸いで御座います」

 それに対し高丞は柔らかく笑い、甲四郎にこう言った。
「この黒田高丞、栗原殿の念願、打倒清親の思いが叶うまで、共に戦働きいたす所存である。我家臣もそれまでは栗原殿の下で働くと、皆申しておる」

 甲四郎は高丞に深々と頭を下げると、上座に座り上機嫌な由出に見えない角度に首を傾け、真顔になった。

「高丞殿、これからは私を、甲四郎とお呼び下され、高丞殿が指揮をとらねば、由出は全ての功績を己のものと言いかねませぬ」

 だから、高丞は自らが戦の先頭に立ち、元の樋野へ戻すのだと、家臣や住民に呼びかけなければ、由出は山名の代表として樋野城の城主になるなどと言いかねない。
 由出はあくまでも山名から借りた兵員であると思い知らせなければ、樋野は今の状態よりも悪くなりかねない、と甲四郎は手短に説明すると、高丞の答えは甲四郎の考えを一つ越えた答えであった。

「儂は清親殿を追い払った後、山名の斉藤殿に樋野を譲り渡すのが宜しいかと考える」

 あまりにも意外な答えが意外な人物から発せられたので、甲四郎は戸惑っていると、高丞は変わらぬ口調で言葉を続けた。

「斉藤殿はご兄弟揃って領民からの信頼が厚い・・・樋野を譲り渡すと申せば、斉藤殿は愚人に樋野城を任せることはしないでしょう、反対する者もおるかもしれぬが、この考えは畠中殿始め各国衆等に書状を送るつもりであるが、栗原殿・・・イヤ、甲四郎も了承してくれるか?」

 唖然としたまま首を縦に振るしか出来ない甲四郎に、高丞は温和な表情を向けた。

「まずは、黒岩を取り戻すことを考えましょうぞ」





 一方、忍山でもかすかな時代の移り変わりを感じ取っている者がいた。
 イチノスネと名を変えた市蔵と、その妻であり忍山の首領忍香である。
 
「甲四郎が動き始めたらしい」
「あの男が動かそうとしている方角は正しいのであろうかのぉ」
「オレは甲四郎の向かっている方角は正しくはないと感じている、だが戦っても戦わなくとも、このままの暮らしを続けることは叶わないと言ったあの男のいった通りにことが運んでいるのはたしかだ」

 甲四郎が仕掛けようとしている戦は、忍山に済む者のことなど考えず繰り広げられることだろう。

「忍香、お主は子と山の女子供老人を連れ山を離れるのだ、ワシは逃げ道をつくる為に戦う」

「イチノスネ思い違いをするでないぞ」
 
 忍香は鋭い表情を市蔵に向けた。

「イチノスネ、女は耕す大地かもしれぬが、アンタが抱いた女は、大地である前に鍬なのだ・・・すなわち女である前に戦士なのだよ」

 子は長老に預け領民は逃がすが、忍香はそれが当然であるように自分がヤソタケルを率いると鮮やかに言ってのけた。

「甲四郎と言ったか・・・あの男とは違う戦を我が率いて見せようぞ」


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