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ブラックモア

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「それでブラックモアの動向はどうだったの?」
「今のところはなんとも言えない。タレコミで悪魔じみた錬金術をしている疑いがあるラボラトリーを三箇所ほど捜査してみたが、まったくの白だったよ。もっとも、人の目を欺くことに長けた連中だ、秘密の部屋や俺たちの感知していないラボで、性懲りもなく人をモンスターに変えてしまう、悪魔の錬金術を研究し続けている可能性は否定しきれないけどな……」
 息子である俺を寝かしつけた、そう思い込んだギーザーとエリカ、父と母はシリアスな会話を始める。熟睡しているはずの俺は、ベッドの上で彼らの会話を盗み聞きしてやっているのだ。
 あれほど強い父と母、長い歴史上たったの11人しかいないドラゴンAと五指剣士の一角、プラズマの迅雷の異名をも持つ小指のエリカが、鎮痛の表情で俯いてしまう。
 それほど恐れているのだ。ブラックモア公爵家の動向を。父や母たちによって倒された、リッチの息子レブナントのリベンジを。彼の父親と同様、世界を暗黒の支配により征服するという野望を!
 リッチは毒性や揮発性の強さから禁じられた危険物質を使っての錬金術、および中毒性の強い薬草や鉱物を使っての薬学などを密かに研究し、その結果生み出されたドラッグを使い、異常なまでに身体能力と戦意の高い、好戦的な拳闘士や剣士をたくさん作り上げていった。
 禁断の人体実験、人格の破壊と改造……。ドラッグにより驚異的な強さを得た彼らのほとんどは、私という人間の意思で被験体になったわけでは決してなく、さまざまな要因や理由により騙され、はたまた彼らの言うことに従わざるを得ない、選択肢などない状態で実験材料にさせられてしまい、驚異的かつ狂人的な戦闘用生ける屍にされてしまったという。

 リッチは健全で公式的に認められたリングではなく、暗黒の地下リングで狂人化させた拳闘士同士による残酷で過酷な試合を組み、莫大な資金を稼ぎ、より狂人的で驚異的な拳闘士や剣士を作るための研究を重ねていった。そのあまりにも惨たらしい試合内容は、試合ではなく死合と言われてもいた……。
 それだけではない。驚異的な戦闘能力を持ち、なおかつブラックモアの命令に忠実に従う、いや、もはや意思を持つことさえ放棄させられ、ブラックモアの思惑や意思通りに動く拳闘士や剣士による、生ける屍兵士の軍団を作り上げて世界中を蹂躙し、世界征服を実行に移したのだ!
 その前に立ち塞がったのが父と母たちであるのだが、その戦いはあまりにも過酷で凄惨で、そして悲痛であった……。父さんや母さんたちが殺めた驚異的な狂人兵士、狂人剣士、狂人拳闘士のそのほとんどは、本来なら善良な人たちであったのだから……。

 
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