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新たな生体兵器
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若い世代以外にもおじちゃんたちも弱すぎる。どうやらブラックモアと彼ら盗賊との接点はなさそう。もし、ブラックモアと関係があったら、彼らの肉体と戦闘力はもっと強化されているはずだから。禁断の錬金術、創薬によって。
場合によっては完全に人間であることを失ってしまって……。
今、わたしが戦っている盗賊たちはある意味すごく人間らしいのだ。死刑、死神、間近に迫りつつある死に対してすごく恐慌しているのだから。
「なぬ?……」
剣が滑った。中背やや肥満気味のおじちゃんを袈裟斬りにした時に、剣の刃がスライドするように滑ってしまったのである。
わたしのミスではない。剣が一気に斬れ味を失ってしまったのである。よく物語では英雄や勇者には相応しい伝説的な剣が登場してくるけど、現実世界においてそんなものは存在しない。
剣は人間やもっと他の動物の骨であり肉を斬る刺すなどして破壊する消耗品なのだ。使えば使い込むほど、多くの骨を斬り裂き肉を千切れば刃は汚れて傷もついていく。刀匠に刃を研磨してもらうこともできるが、その都度に剣は細くなっていきやがては使い物にならなくなってしまう。
わたしも夫や仲間と共にリッチ・ブラックモアと戦った時には、剣を使い込みすぎて数え切れないほど交換している。
だけど、今回の剣の切れ味のダウンの仕方は異様だった。今まで普通に肉を斬っていたのに、いきなりまったく斬れなくなってしまったのである。徐々に、ではなくいきなりであったのだ。
わたしは咄嗟に剣を捨てて、袈裟の字型に血を流しながら痛みに顔をしかめている彼の首へ、勢いをつけて手刀を全力で叩き込んだ。相手への情けではなく戦闘行動を不可能な状態にするために。
グギャ……。人生で二度目の経験だった。子供向けのファンタジー小説に登場してくる、怪奇植物の断末魔のような音が耳にわずかに聞こえてきて、手刀を食らわせた手には生命線を文字通り絶ってしまった音が振動として響いてきた。手から体内へと伝わってくる断末魔であったのだ。
わたしは瞬時に命を絶ってしまった、命を奪ってしまった彼の顔を一瞬だけ見た。いや、見えなかった。身体の正面を向いているはずの顔は地面方向になる真後ろを向いてしまっていたから。骨が折れた、というより粉砕された首は絞った雑巾のように折れ曲がっている。
剣でたくさんの人命を奪ってきたくせして、それ以外の方法で命を奪ってしまったことに、申し訳なさを感じてしまう。これではわたしの切っ先によって死んでいった人たちも浮かばれないだろうな。その大半は男どもである。
ゴメンね、剣を頂戴するわよ。わたしは身体の正面にある彼の後頭部に向かって心の中で言うと剣を奪った。架空のお話しに出て来る宝剣や魔剣でこそないものの、わたしの普段装備している剣は高額な物だ。マテリアルも職人も工法も普通の剣とは鍛え方が違う。斬れ味も耐久性も最高レベルの業物。
彼の剣はそれなりに斬れ味は良かったけど、すぐにダメになってしまった。瞬間的に死体になった彼の仲間の肉に囚われてしまったのである。安物とはいえ、やはり寿命が早すぎる気がする。いや、早すぎると確信する。
間違いない。ブラックモアが新たに作り上げた人体だ。人体を犠牲にすることにより一流の剣士から得物を使い物にならなくする、生体トラップ。奴らは、またもや非人道的な生物兵器、人間兵器を創ってしまったのである!
死ぬことを前提に、死ぬことを見越しての肉体改造。卑劣!許せないわ!
ガラガラガラ……ドジャン。崩壊していた厚みのある壁の一部が大きく崩れ落ちたのは、わたしが怒りに燃えている時であった。現れたのはワニのマスクをつけた大きな男であった。拳闘士だろう。おそらく盗賊の仲間でブラックモアの手により肉体改造を施された。
場合によっては完全に人間であることを失ってしまって……。
今、わたしが戦っている盗賊たちはある意味すごく人間らしいのだ。死刑、死神、間近に迫りつつある死に対してすごく恐慌しているのだから。
「なぬ?……」
剣が滑った。中背やや肥満気味のおじちゃんを袈裟斬りにした時に、剣の刃がスライドするように滑ってしまったのである。
わたしのミスではない。剣が一気に斬れ味を失ってしまったのである。よく物語では英雄や勇者には相応しい伝説的な剣が登場してくるけど、現実世界においてそんなものは存在しない。
剣は人間やもっと他の動物の骨であり肉を斬る刺すなどして破壊する消耗品なのだ。使えば使い込むほど、多くの骨を斬り裂き肉を千切れば刃は汚れて傷もついていく。刀匠に刃を研磨してもらうこともできるが、その都度に剣は細くなっていきやがては使い物にならなくなってしまう。
わたしも夫や仲間と共にリッチ・ブラックモアと戦った時には、剣を使い込みすぎて数え切れないほど交換している。
だけど、今回の剣の切れ味のダウンの仕方は異様だった。今まで普通に肉を斬っていたのに、いきなりまったく斬れなくなってしまったのである。徐々に、ではなくいきなりであったのだ。
わたしは咄嗟に剣を捨てて、袈裟の字型に血を流しながら痛みに顔をしかめている彼の首へ、勢いをつけて手刀を全力で叩き込んだ。相手への情けではなく戦闘行動を不可能な状態にするために。
グギャ……。人生で二度目の経験だった。子供向けのファンタジー小説に登場してくる、怪奇植物の断末魔のような音が耳にわずかに聞こえてきて、手刀を食らわせた手には生命線を文字通り絶ってしまった音が振動として響いてきた。手から体内へと伝わってくる断末魔であったのだ。
わたしは瞬時に命を絶ってしまった、命を奪ってしまった彼の顔を一瞬だけ見た。いや、見えなかった。身体の正面を向いているはずの顔は地面方向になる真後ろを向いてしまっていたから。骨が折れた、というより粉砕された首は絞った雑巾のように折れ曲がっている。
剣でたくさんの人命を奪ってきたくせして、それ以外の方法で命を奪ってしまったことに、申し訳なさを感じてしまう。これではわたしの切っ先によって死んでいった人たちも浮かばれないだろうな。その大半は男どもである。
ゴメンね、剣を頂戴するわよ。わたしは身体の正面にある彼の後頭部に向かって心の中で言うと剣を奪った。架空のお話しに出て来る宝剣や魔剣でこそないものの、わたしの普段装備している剣は高額な物だ。マテリアルも職人も工法も普通の剣とは鍛え方が違う。斬れ味も耐久性も最高レベルの業物。
彼の剣はそれなりに斬れ味は良かったけど、すぐにダメになってしまった。瞬間的に死体になった彼の仲間の肉に囚われてしまったのである。安物とはいえ、やはり寿命が早すぎる気がする。いや、早すぎると確信する。
間違いない。ブラックモアが新たに作り上げた人体だ。人体を犠牲にすることにより一流の剣士から得物を使い物にならなくする、生体トラップ。奴らは、またもや非人道的な生物兵器、人間兵器を創ってしまったのである!
死ぬことを前提に、死ぬことを見越しての肉体改造。卑劣!許せないわ!
ガラガラガラ……ドジャン。崩壊していた厚みのある壁の一部が大きく崩れ落ちたのは、わたしが怒りに燃えている時であった。現れたのはワニのマスクをつけた大きな男であった。拳闘士だろう。おそらく盗賊の仲間でブラックモアの手により肉体改造を施された。
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