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タッチ

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「何をしているんだ?さっさと戻らんかい!」
 黒づくめの手下の一人が、乱暴に俺の体を背後から抱え上げる。
「グズグズすんな!」
「このノロマめ!」
 背後男の左右にいた手下たちがやって来て、さりげなく俺の身体に蹴りやパンチお見舞ってくる。おそらく、ブラックモア軍団の中で一番の底辺ザコ。それでも成人している男子の打撃なので、それなりに痛くてダメージというか痛手を受けてしまう。

 ほんの少し痛めつけられて戻された俺。腹立たしくて我慢できないので言ってやる。
「卑怯だぞ!1vs1の戦いじゃねーのかよ」
「もちろん、1vs1の戦いだよ。俺だって場外に出たら、アミーゴと同じ目に遭うはずだぞ」
「本当かよ?」
 疑問に思いつつバトル再開。酔いが少々酷いので頑張ってこちらから攻撃していく。俺のパンチとキックのコンボ攻撃の前に黒づくめは場外まで後退してしてしまった。
「大丈夫ですかい?」
「ささ、これを塗っておきましょう。痛いのなんてすぐに吹き飛んでいきまっせ」
 後ろから優しく抱きしめられ、左右の手下たちが痛み止めを兼ねた薬を少しパンチをもらった顔面に塗ってあげている。
「おい!明らかに待遇が違うだろ!」
 露骨な連中。もう何を言っても無駄だろう。疲れるだけ。

 俺のアッパーが黒づくめの顎にヒットすると、のけぞるように彼は倒れていって、そのまま仰向けでダウンしてしまった。
「うっ。くそ。よくもやりやがったな」
 黒づくめは口から溢れ出た血を拭うと立ちあがろうとする。ふらついてなかなか立ち上がれない。どうやら、かなり効いているようだ。って、この程度の相手、本来なら一撃で失神K Oしなければならないんだけど、やっぱ酒が効きすぎているみたいだ。
「タッチ。選手交代だよ。今のあんたじゃあの坊やには勝てないだろう。身体の状態も実力的にもさ」
 ほぼビキニ衣装の女が黒づくめの男の肩を叩いて、俺の前へとやってきた。
「ちょ、ちょいとばかり油断しただけだい!実力不足なわけじゃないんだからな!でも、ダメージがあるのは確かしだし、レブナントご当主様もキャンディスお嬢様もお主がどれほどやれるのか知りたがっているから、タッチは認めてやるけどよ」
「はいはい。分かったよ。それと底辺ザコ10人衆は手出し無用だよ。グルリもしなくて良い。周りに人がいない方が、小柄でスピーディーなあたいは戦いやすい、いや、坊やを痛めつけやすいからね」
 女が言うと底ザどもは下がっていく。どうやら、彼女は案外大物クラスなのかも知れない。秘蔵っ子とかそんなポジションなのかな?

 ほとんどビキニ女の小柄な身体からは、巨大な香木のように甘い匂いが漂っている。酒の影響もあってすごく惹きつけられてしまう。酒の回っている男に対してより強力な魅力を発揮する、香水なのかもしれない。
 露出している肌からは女の色香という光線の匂いも放っている。すごく大量の。さっきも言ったけど細い身体はかなりの筋肉質だ。女としての身体全体のシルエットがくっきり浮き彫りになるほどの。それゆえか、胸の谷間ははっきりと現れているほどボリュームがある。
 胸を覆うビキニアーマー以外だと、腰回りにリング状の鎖をいくつも数珠繋ぎにしたアクセサリーぐらいしか、ほぼ装備品はない。靴はバルト用のブーツではなく、少し高めの尖ったハイヒールを履いている。違う靴だったら、背はもう少し低くなるだろう。
 顔全体はホリが深く唇と化粧は少々厚い。素顔は分からないけど、危険な香りのする美しい顔だと思う。髪の毛のカラーは紫がかったブルネット。頭全体を覆うぐらいの長さ、クレオパトラのようなボブだ。
 酒の残る俺は、彼女の危険なまでの女の色香、匂いに飲み込まれかけてしまっている。
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