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粉塵爆発

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 ローリング。ゴォォン!ローリング。ゴォォン!ローリング。ゴォォン!俺は怒り狂う翼竜の口撃を紙一重のタイミングでかわしていく。死が1秒未満というタイミングでアプローチしてくる。
 ビューン!空を切る音がした。赤い炎が、高速で翼竜へと向かっていく。火矢が放たれたのだ。大きい的だ。当たった!だけど、当たった瞬間に火は消えてしまい、さして大きなダメージは与えられなかったよだ。
 バシュ~ン。翼竜の巨大な口は人間を捉え損ねて代わりに巨大な樽を噛み砕いてしまった。小麦か何かかな?黄色というか白というか粉塵が辺りに舞い上がった。
「おい!船の上で火の気は厳禁だぜ!」
 だんだんスクエアジャングルの人間になっていって、最近ではそんなに思い出すことはなくなってきてが、俺は地球の日本という国で生きてきたのだ。
 第二次世界大戦で日本は主に米国を中心にした連合国側に負けてしまったわけだけど、日本の連合艦隊の空母が連合国軍の飛行機の爆弾をたらふく食わされて、空母の艦載機の爆弾や空母の燃料などに燃え広がり、短時間で巨大な空母が沈んでしまったことは知っている。あるいは、事故で戦艦が炎に包まれて沈んでしまったことも、なんとなく聞いとことがある。
 歴史も船の構造もあんまり詳しくないけど、古代より大洋の船の上で起こる火災がいかに地獄となるのかは、想像はつく。逃げようにも逃げられる場所がないのだから。
 迫りくる炎に追われ食糧も水もなく陸より広い海に飛び込んだところで、助かる見込みはかなり低いのだ。もちろん海に飛び込まなければ船の上で焼け死ぬことになる。水死も焼死もかなりきつく苦しい死に方だと聞いたこともある。
 だけど、舞い散る粉塵を見ながら、これは一か八かだと思ってしまった。水死も焼死も苦しそうだけど、翼竜に食われてしまうのも苦しそうだからだ。っていうか、マジですげえ痛そう。一か八かの賭けに賭けてみたくなるのも当然。

 火+小麦粉というより可燃性のある粉末、これは使えるぞ。俺はサイエンスに対する思考も実験も技術も発達していた世界に住んでいた元地球人として、粉塵爆発を知っているし、それが可燃性のある粉末に酸素が程よく混ざり合った状態で火をつければ、爆発するという知識もある。専門的なものではなく雑学レベルのものであるけど。
 いや、この世界も錬金術がかなり発達していて地球とは別の独特の進歩をしている。例えばブラックモアのような……。船員の中にも粉塵爆発という言葉は知らなくても、小麦粉が時と場合によっては激しく燃え上がるという現象を知っている者もいるだろう。
「貴様の言いたいことはよく分かる。だけど、船上でその作戦はあまりにも危険すぎる!」
「だけど、キャプテン・スカーレット。どのみちこのままじゃ全員翼竜の餌食になるだけだぞ。そして、船荷は海賊たちのモノになっちまう!もし、作戦が失敗しても荷物も燃え尽きてしまうから、奴らにとっても痛手になるはずだ!一矢を報いるどころか一泡吹かせられることになると、俺は思うぜ!」
「ふむん!まさに貴様のいう通りだ!海賊どもにはさぞかし嫌がらせをしてやったことになろう。ヨシ!貴様の作戦を許可するぞ!」
「ありがとな!キャプテン・スカーレット!」

 ゴォォン!バシュ~ン。翼竜は大きな口を開けて小麦粉の入った巨大な荷物箱を噛み砕く。舞い上がる小麦粉。ゴォォン!翼竜は大きな口を開けて舞い上がる小麦粉を吸い込もうとしている。なんか知らないけどさ、アイツ小麦粉のことが気に入ったようだ。
 ギリリ。俺は弓を引き絞る。狙いをつけて火矢を放つ!バシューン。ボォぉン!よっしゃー!矢は大きく開かれた翼竜の口の中へと吸い込まれ、そこで粉塵爆発が起こる!
 爆弾が爆裂した程の派手な爆発ではない。爆発というより少し派手な燃焼という感じだった。それでも瞬く間に翼竜は口から全身炎に包み込まれてしまった。口の中は外ほど炎に強くはないみたいだ。さらに火矢だけでは燃えなかった外の皮膚も、全身に小麦粉がくっついた状態では火だるまになることは免れなかった。
 激しい火傷の痛みに巨大な翼竜は暴れのたうち、ライダーの海賊は弾き飛ばされ帆のマストに全身を直撃し、そのまま甲板に落下して全く動かなくなってしまった。身体がグッタリぐにゃりとなっている。おそらく即死したものと思われる。
 俺以外にも弓矢の扱いに長けた者はいる。俺と同じく用心棒として乗り込んだ者の中にも、船員の中にもいる。残念ながら二人ほど弓矢のうまい者が翼竜の餌食になってしまっていたが、三人ほどの弓矢の名手が放った火矢は、見事に翼竜の口元に当たって瞬く間に巨大なモンスターと、そのライダーである海賊を火だるまにしてくれた。
 
 翼竜はまだ生き残っていたが、たった一頭ほどでは部が悪いと思ったのだろう、悔しそうに少しの時間船の真上を旋回した後、海賊は翼竜空母へと帰って行った。一頭だけ残して翼竜も熟練されたライダーも皆死んでしまった。もうこれ以上、この船を狙ってくることもないだろう。

  
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