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飛躍の始まり

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 時に断崖絶壁をロッククライミングでよじ登り、現地の人にレクチャーされながら川をカヌーで漕いで、チョウヒ族の子供たちに乗り方をみっちり教わって、翼竜の翼を用いたハングライダーで大空を滑空し、俺はスクエアジャングルという世界のあらゆるところを旅して回った。もちろん、時には自分の足で歩いて。
 大きな歓声が俺の耳から身体の中、五臓六腑にまで響き渡る。この世界の人間に完全になれたと思っている俺、ようやくスクエアジャングルの住人になれたと実感した時から、俺の拳闘士としての実力は一気に上がった。
 あれほど出来そうでできなかった大会での優勝もあっさりと果たし、その後も出た大会では結果を残していく。バレていなそうで案外多くの人にバレていた正体。あのドラゴンAとプラズマの迅雷との間に生まれた子供としてはイマイチなんじゃね?かつての俺はそう言われていたが、今では少しずつだけど二人の間に生まれた子供であると認められつつある。
 オレンジドラゴン。つまりはベスとはヘーゲル大会の準決勝で闘い、俺は初めて彼女に勝ことができた。決勝では、グリーンドラゴンをも降して、俺は世界的な大会で優勝を飾ることができた。
 俺は勢いに乗ってベスに結婚を申し込んだが、この時は断られてしまった。やはり、彼女は俺に初めて負けてしまって凄く悔しがっていたのだ。俺が今までの俺ではなくこの世界の住人になれて格段に強くなったのは、彼女は俺の闘いぶりや雰囲気から察していた。おそらく勝てないだろうとも思っていたらしい。それでも、負けたことは悔しくて悔しくてたまらないから、彼女も今までと違う修行を行い強くなると言っていた。
 
 キルケゴール大会。ベスとの半年前の約束を果たすべく、俺はこの大会に参加した。ほぼ半年間、釣りを中心としたゆっくりとした時間を過ごしての参加であった。もちろん、格闘技の修行もきちんとしてけどね。
 決勝戦、だったらよりドラマチックだったと思うけど、俺とベスとの対決は決勝トーナメントのベスト8だった。それぞれ予選とベスト16をほぼ苦戦することなく勝ち上がってきている。
 この時のベスは今まで闘ってきたどんなベスよりも強かった。試合開始からベスは激しく攻めてきて、来るかな、と俺はベスの試合の組み方の一つとして予想はしていたけど、予想外だったのは、その攻め込み方があまりにも捨て身であったことだ。
 隙は見えていた。だけど、ベスの攻撃があまりにも激しく、そして執拗で、反撃する気力が削がれてしまっていたのだ。この前の試合で敗戦してしまった悔しさ、今まで負けたことのなかった相手に初めて負けてしまった悔しさと焦燥、今度はあたしが勝のよ!そうしたベスの鬼気迫るまでの気迫に、俺は完全に気圧され飲み込まれてしまったのだ。
 弱気になってより焦ってガードを固めても、そのガードという物理的な隙、さらには集中力や精神力の隙まで突かれてしまい、ベスの拳が掌が足の甲が足の裏が俺の顔面にヒットし、ボディを貫き押し潰し、見切れたと思って身体を動かしても、ベスの足の指先や拳の先端に顎や頬を掠められて、痛みとダメージ、脅威と恐怖から、俺は戦意すら吹き飛ばされてしまっていた。

 追い詰められて立っているのもやっと、視界も腫れ上がり痛む右目に遮られ、激しい鼻血で呼吸も奪われる中、ベスの右手が伸びてくるのがぼやけながらも見えた。気づいた時にはもう目の前にあった。
 トドメを刺される。ただ単にこの試合に負けてしまうのではなく、選手生命や生命そのものまで奪われてしまう。そんな恐ろしい想像さえ一瞬閃いた程だった。
 だけど、実際的にはトドメは刺されなかった。ベスが俺のダメージを察して自ら攻撃をするのをやめてくれた。そう思ったのは一瞬で、ベスは俺の体に彼女の全身を預けるようにして、寄りかかりそして抱きついてきたのだ。
 その時のベスの呼吸はあまりにも激しかった。荒いペースで炎のように熱すぎる息を吐き出していたのだ。そして、身体でベスの心臓が異常なまでの速さで脈打っているのを感じた。ベスの美しい肉体が爆発してしまう。そう、真剣に焦ってしまうほどに。
 ベスは、全てを出し切ってしまったのだ。俺はそう感じ取った。俺の方もかなりダメージがあったせいもあり、俺はベスの身体を解くことはできなかった。異常なまでに長いクリンチに観客たちがざわつき始める。
 ギブアップ。少し呼吸が落ち着いてくると、ベスは自らの負けをレフェリーに申告した。一方的に攻めて相手に何もさせないほど圧倒的に試合を有利に進めていた彼女が、ギブアップをしたことにより、観客席のざわつき方が最大級になってしまった。八百長を疑う者もいたが、ベスの攻撃があまりにも強すぎたためにかえって彼女の身体の方が怪我をしてしまったんだ、そんな感じの声をその場で拾うことができた。
 俺はこうしてベスに連続して勝てたのであった。もちろん、何もできずに、そして、ほとんど何もしていないのに勝てたしまたったことに釈然としないものを感じていたけど。
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