偽夫婦お家騒動始末記

紫紺

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第3章

その3

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 ところが、それから三日も経たず、長屋の住人が見た謎の侍の素性が知れた。なんということはない、その男が再び長屋を訪れたからだ。しかもその時隼は不在、留守番していた紫音が相対することとなった。

「ここは篠宮隼の家と聞いたが……」

 引き戸を開けた目の前に立っていたのは、確かに上等な着物と袴を纏った侍だった。背の高さは隼より少し低いが、すらりとした男前。ずっと垢ぬけた雰囲気だ。

「さようでございますが……」
「そうなのか? おかしいな」

 名乗りもせず、顎に手をやり首を傾げる男。紫音はこいつが例の男と気付いていてもムッとした。

「どちら様でしょうか。主人になにかご用ですか?」

 主人のところを強めに言う。

「いや、失礼した。郷里の者を娶ったと聞いておったので……」

 そこで紫音はハッとした。やはり彼は隼と同じ前田藩の藩士なのだ。しかも隼と近い仲の。郷里の人間関係なんて狭いものだ。この男はここに来れば、知った顔の女が現れるとばかり思っていたのだろう。どこでその噂を聞いたかはわからないが……。

「名乗らずにすまない。私は前田藩士、一条要と申すもの……その……」

 ――――だよな……旅装束でないところを見ると江戸住まいか……どうする。しらばっくれるか。それとも……。

「あの、とにかく中へお入りください」

 紫音はちらりと彼の肩越しに目をやり、男を部屋へと迎え入れた。彼の訪問を、長屋の噂好き共が見過ごすはずはない。

「では、失礼する」

 男は紫音に招かれるまま、土間へと踏み入れた。

「実は……」

 紫音はそこで、隼と示し合わせていた嘘を並べた。自分は水茶屋上がりの女で、隼が気を遣って郷里の者としているのだと。

「ふうん。あいつらしくもないな。あ、いや、これはまた失礼を。奥方のことを考えてのことでしょう」
「はい。隼様はお優しい方なので……とにかくお上がり下さい。お茶を……」

 要はちらりと部屋を見る。その目は馬鹿にしたようではなく、どことなく寂し気だった。

「いえ、隼の不在のうちに上がり込むことはできません。出直します」
「あ。それでしたら、いつも夕刻までには戻りますので……」

 既に引手に手をかけ、帰ろうとする要に紫音が声をかける。

「承知しました。隼によろしくお伝えください」

 紫音は深々と頭を下げた。爽やかな笑みを残し、要は早足で長屋を抜けていく。紫音はその後ろ姿が視線から消えていくまで、じっと眺めていた。




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