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竜崎慎の事件メモ その5
しおりを挟む藍が俺の部屋に泊まっていった。土木科の連中は何度も泊ったことがあるので、俺的には全然通常運転だったんだ。の、はずなのに、全くいつもと違った。
『そろそろ帰るよ』
なんて藍が言い出したのが違和感の始まり。土曜日の深夜近くになって、そんなこと言うヤツは今までほとんどいなかった。いたとしても『あ、そう。気をつけてな』の一言で解散だった。
――――でも……俺は戸惑ってしまった。
泊るに決まってるとは思ってた。それに、物騒なので心配なのも。土木の連中とは違い、藍はどこか放っておけないと思わせるんだ。
『泊まるつもりはなかったから』
なんて言われて、正直俺はめっちゃ焦ってた。なんで焦ってるのかもわからない。ただ、その直前、事故とはいえ、藍に覆いかぶさってしまった。
――――もしかして、誤解した? 俺が襲うとでも思ったのか?
そうならかなりのショックだ。純粋に泊まるに決まってると思ってたのを覆されて……ああ、なんでこんなに論理的に話せないんだろう。
しかし、俺がらしくなくキョドってるのをどう受け止めたのかわからんが、結局、藍は泊ることになった。物凄く安心したのだが、その感情はとりあえず無視した。
その後、色々調達するために二人してコンビニへ。その道すがら、藍は俺のことを優しいと言う。でも、それは大きな間違いだし過大評価だ。
『俺だって、誰にでも優しいわけじゃない』
だが、思わず口にした言葉に藍の反応はなかった。つい本音が出たわけだけど、これってよく考えるとマズかったかも。またまた俺は焦ってしまった。
いつものペースを取り戻すためにも事件の話を蒸し返すことに。入間教授のことはあまり知らなかったので、それはそれで興味深かった。
結局、俺にはこういう血なまぐさい話をしてるのが一番性に合ってるらしい。それも結構悲しい事実だな。
『ソファーで寝るよ』
俺は反対を主張したのだが、藍が譲らない。まあ、体格から言ってそれは正しい。それに、通常なら宿泊者は当然ソファーなんだが……。
――――藍となら、一緒にベッドという案もいけそうだけど……。
もちろん体格のことだ。藍は身長は普通だが、スラっとしてるので幅はとらない。俺だって太ってるわけじゃないからな。
――――でも、また変に誤解されてもいかん。
先ほどの『事故』がなければ、普通に言えたのに。なんだか俺は凄く残念だと思ったんだ。
結局、自分の心理を探るより、事件を探る方が10倍楽しいと悟った俺は、翌月曜の朝、田代刑事を捕まえた。警察の捜査の進行状況や能代さんの毒物について続報を知りたかった。
「私からは何も言えません」
なんて、いつものクールさで対応してたけど、カマかけには案外簡単に屈してしまう。
「え、どうしてそれを? いえ、そ、それはですね……」
と、結果的に色々教えてしまう展開に。ここは百戦錬磨の風見さんとは違うところだ。でも、ここで得た情報で警察の邪魔はしないようするから、許してね。
その後現れた風見刑事に終了させられたが、まあ聞きたいことは聞けたので全然OKだ。
それに、偶然なのかそこにいた藍にも会えた。機嫌のよかった俺はつい勢いで壁ドンなんてやっちゃって。その時の藍の顔、可愛すぎかよ。
――――なんだか調子いいな。こんなのただのおふざけじゃないか。
俺は重く考え過ぎてたのかと思い当たり、藍を連れて俺たち土木科の城、研究室に連れて行った。『同伴か?』なんて失礼な挨拶もされたが、悪い気はしなかった。
だったのだが……。
俺があまりに事件に深入りし過ぎていたからなのか、藍が見かけによらず、好奇心旺盛な性格だったのか。あいつは思いも寄らぬ行動に!
このことが切っ掛けで、俺たちはとんでもないことに。まさかこの俺が、こんなに振り回されていたとは思わなかった……。
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