時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

文字の大きさ
23 / 98

第22話 無遠慮な言葉

しおりを挟む


「どうした? もう夜中だぞ。私は構わないが……」

 ドアを開けてくれた水無瀬先輩は、いつもと変わらず落ち着いていた。けど、近所迷惑なのは気になったみたいだ。

「すみません、遅くに」
「いいよ。ほら、突っ立ってないで入って」

 けどすぐに笑顔になって、僕を迎え入れてくれた。

「そこに座って。珈琲でも淹れよう。お酒はもういいだろう?」

 先輩の部屋はこれが同じアパートかと思うくらい機能的で整頓されていた。
 キッチンと部屋は食器棚兼飾り棚で仕切られ、中央に二人掛けのソファとテーブル。奥にはベッドとライティングデスクが置かれていた。

「今日はどうだった? 楽しめた?」

 僕はまだソファーに座れず、先輩が珈琲を運ぶのを手伝った。けど、その無遠慮な言葉にまた感情的になってしまう。

「どうしてそんなこと言うんですか」
「ん? なに?」

 カップをテーブルに置き、僕は突っかかる。

「僕のこと、好きなんじゃないんですか? それなのにどうして。楽しめたとか、いい出会いがあるといいねとか言うんですか? 僕が……ただ、酒飲みに行ったって思ってないですよね?」
「ああ、そういうこと……」

 先輩も座ろうとしない。テーブルの上には二つの珈琲カップが芳醇な香りを立てているというのに、僕らは突っ立ったまま向かい合ってる。

 先輩は黒のゆるシャツにラフなボトムスだけど、部屋着とは思えないほどきまっていた。髪は無造作に束ねてて、それもまたセクシーに感じる。セクシーって僕はもう頭おかしくなってるな。

「そういうことって……僕、言いましたよね。人違いだって」
「人違いじゃない」
「違います。僕はなにも覚えてない。あなたのことを知らなかった」
「うん、それはわかってるよ」

 取り乱す僕に、先輩は全く動じず、淡々と応えてる。だんだん僕は腹が立ってきた。どうして僕はこんなに苦しいのに、あなたは平然としているのかと。

「僕が、先輩を好きになったらどうするんですか? 本物が現れたら、僕はどうしたらいいんですか。僕は……」
「花宮、声が大き……」
「僕はあなたがあの場で舞うのを見て、たまらなかった。僕はっ!」

 そこで、僕の言葉も息も全部奪われた。体ごと壁まで持っていかれ、先輩の大きな手が僕の顎を乱暴に掴む。

 ――――あ……。

 僕の唇を塞ぐ水無瀬先輩の唇。柔らかい? 熱い? 僕は全身が震えるのを感じた。意識が遠のいていく。
 彼の腕に支えられながら、僕はずるずると音を立てて堕ちていった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

処理中です...