28 / 98
第27話 タトゥー
しおりを挟む『また夜にでも』
学食で冬真は言った。からってわけじゃないけど、僕は部屋に帰ってからめっちゃソワソワしていた。
今夜は予定がないんだろうか。いつも遅くまで大学での実験や道場での仕事だったりで帰宅は深夜になることもある。
別に見張ってるわけじゃないけど、音をさせない武士な冬真でも玄関の鍵を開ける音だけは聞こえる(こっちが静かにしてればだけど)。
で、僕は九時を回るころから、テレビも消して静かに本なんか読んでる。全然頭に入ってこなくて、ずっと同じページをうろうろしてるけど。
因みに冬真の部屋にはテレビはない。パソコンはあるけど、みんな大好きウイチューブもほとんど見ないらしい。かといって、世事に疎いわけではない。むしろ政治とか国際問題は僕より詳しい。大人なんだよな。
そろそろ10時を回るころ、待望のカギを回す、乾いた金属音が聞こえた。
――――帰って来たっ!
まるで父親を待つ4歳児みたいだな、僕は。けどどうしよう。訪ねていっていいものか。いつもより早いとはいえ、もう10時だ。
しかし、こんなに近くに住んでるのに、たまにすれ違う程度にしか会えないとはどういうことだ。最後に冬真が僕の部屋に来たのは1週間も前だし、しかも10分もいなかった。
――――僕たち、付き合ってるんだよな。
僕は意を決して玄関に向かいサンダルをつっかける。そしてドアを威勢よく開けると。
「わっ!」
「あっ!」
なんと目の前に大きな黒い影が。
「冬真……ああ、僕、今そっちに行こうかと」
今日学食で会った時と同じ藍色のシャツを着た冬真が立っていた。
「ん。私の部屋でもいいけど」
「あ、ううん。せっかく来てくれたから、どうぞ入って」
せっかくも何も隣だけど。冬真が後ろ手でドアを閉める。アパートの玄関なんて半間もない狭い場所だ。慌ててサンダルを脱ごうとしたら……。
「待って、ケイ」
ふいに、僕の肩に艶々の黒髪が……。
――――え……。
僕は背後から冬真に抱きしめられる。耳朶に冬真の息がかかった。
胸がいっぱいになる。体が一瞬にして燃え上がるみたいに熱くなったのは、なにもくっついてるからじゃないだろう。
僕たちはしばらくそうして……それから何かに導かれるよう、唇を重ねた。
『ゆっくり進めればいい』
その言葉を律儀に守るつもりなのか。口づけのあと、冬真は僕から体を離すと、さっさと部屋に入っていってしまった。
僕の体に点いちゃった火をなんだと思ってるんだろう。まだまだ燃えたいって叫んでるのに。
それでも、そんな大胆なことを僕はまだ言えなかった。僕は準備してた珈琲とお菓子を二人掛けのダイニングテーブルに置く。
「お、いいな。この菓子好きなんだ」
知ってるよ。
「食べて。僕もこれ好きなんだよ」
適当なこと言いながら、冬真の前に座る。こうして真正面に座ると、なんだか遠い。やっぱり冬真の部屋にすれば良かったかな。あそこならソファーに隣り合わせに座れる。
「あ、あれ。冬真、その手首の……」
あほな妄想をしていたとき、お菓子に手を伸ばす冬真の手首に目がいった。初めて会ったときに気付いたタトゥー。そう言えば聞かずじまいだった。
「あ、これ?」
さっとシャツの袖をまくる。そこから現れたのはタトゥーでもなんでもない、少し変わった形をした痣だった。
22
あなたにおすすめの小説
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~
Tubling@書籍化&コミカライズ決定
BL
主人公の高嶺 亮(たかみね りょう)は、中学生時代の痛い経験からサラサラな前髪を目深に切り揃え、分厚いびんぞこ眼鏡をかけ、できるだけ素顔をさらさないように細心の注意を払いながら高校生活デビューを果たした。
幼馴染の久楽 結人(くらく ゆいと)が同じ高校に入学しているのを知り、小学校卒業以来の再会を楽しみにするも、再会した幼馴染は金髪ヤンキーになっていて…不良仲間とつるみ、自分を知らない人間だと突き放す。
『ずっとそばにいるから。大丈夫だから』
僕があの時の約束を破ったから?
でも確かに突き放されたはずなのに…
なぜか結人は事あるごとに自分を助けてくれる。どういうこと?
そんな結人が亮と再会して、とある悩みを抱えていた。それは――
「再会した幼馴染(亮)が可愛すぎる件」
本当は優しくしたいのにとある理由から素直になれず、亮に対して拗れに拗れた想いを抱く結人。
幼馴染の素顔を守りたい。独占したい。でも今更素直になれない――
無自覚な亮に次々と魅了されていく周りの男子を振り切り、亮からの「好き」をゲット出来るのか?
「俺を好きになれ」
拗れた結人の想いの行方は……体格も性格も正反対の2人の恋は一筋縄ではいかない模様です!!
不器用な2人が周りを巻き込みながら、少しずつ距離を縮めていく、苦くて甘い高校生BLです。
アルファポリスさんでは初のBL作品となりますので、完結までがんばります。
第13回BL大賞にエントリーしている作品です。応援していただけると泣いて喜びます!!
※完結したので感想欄開いてます~~^^
●高校生時代はピュアloveです。キスはあります。
●物語は全て一人称で進んでいきます。
●基本的に攻めの愛が重いです。
●最初はサクサク更新します。両想いになるまではだいたい10万字程度になります。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―
なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。
その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。
死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。
かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。
そして、孤独だったアシェル。
凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。
だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる