時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第26話 武士の情け

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 早学食は、空いててゆっくり食べられるから最高だ。上白石のノロケ話を聞きながら、カレーライスも残り少なくなってきた。

「あれ、ケイ。もうランチタイムか」

 足音も気配もさせずに僕のすぐ後ろに寄って来た人物。そして低音のいい声。

「冬真っ」

 スプーンをくわえたまま叫ぶ。そんなことが出来るのは水無瀬冬真しかいない。僕のすぐ左隣に立つ冬真は、長い黒髪に藍色のシャツと黒パンツ。いつもながら惚れ惚れする。

「あ……水無瀬先輩」

 上白石の背中がピンと伸びた。今、僕らが呼び合ったの聞いてたよな。『ケイ』『冬真』って……これはもしかしてマズい?

「食事中ごめん。驚かせたな」
「あ、ううん」

 背後のヒリヒリした視線が怖い。

「姿を見かけたから、つい声をかけてしまった。また夜にでも」

 その瞳に見つめられたら、ため息しか出ないよ。僕は頷くと笑顔を見せる。冬真も口角を上げると少しだけ目を細め、そのまま足音も立てずに去ってしまった。

「は、な、み、やー」

 冬真の姿が見えなくなるや否や、殺気が僕の背中に。

「どういうことだよっ!」

 後ろから自分の右手で僕の首を絞めてきた。

「ギブッ、ギブだよっ! 話すから」

 僕は何度もあいつの腕を叩いた。



 2時限目が終わり、正規のランチタイムになった。学食の3か所ある出入り口からは腹ペコの学生たちがどやどやと押し寄せ、一挙に席を埋める。
 既に食事を終えた僕たちは、その波に押し出されるように学食を後にした。

「ふうううん。花宮が水無瀬先輩とね」
「あの、ただ親しくなったってことで……」

 何と言ったらいいんだろう。お互いが好きだという気持ちは打ち明けたけど。これって付き合ってると言えるんだろうか。

「いいよ。みなまで聞くのは許してやる。武士の情けだ」
「ああ、そう。どうも」

 なんのお情けなのか。まあいいや。僕も詳しく語りたくない。

「でもなんか羨ましい。水無瀬先輩ってマジで男が惚れる男だよな。しかも玉の輿やん」

 なんてため息交じり言う。正直、それとはちょっと違うんだけど、それにも僕は黙っていた。



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