時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第25話 時代小説

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 冬真と……(先輩呼びを禁じられたので)付き合うことになって2週間が経った。とはいえ、お互いの呼び名と僕が敬語をやめたこと(時々出るけど)以外はなにも変わったことはなかった。
 それに実は、上白石にさえこのことを言えてない。別に隠れて付き合ってるわけじゃないんだけど、大っぴらに言うのも抵抗があった。



 大体冬真は忙しすぎて、まともにデートなんかできない。まあ、一緒に映画とか食事に行ったとしても、誰もデートと思わない説もあるが。

 ――――上白石にこのこと言ったら、どういう反応するだろう。あいつも水無瀬冬真のファンなのは間違いないし、怒るかな……。

 それもあって、特にこいつには言えてないのだ。

「な、最近、例の変な夢見るの?」

 2時限目が休講になったので、二人して学食で早弁ならぬ早学食をしている。

「あ、ああ。そう言えば最近見てないな」

 冬真と付き合いだしてから見なくなった気がする。関係ないのかもしれんが。

「なんだ、つまんないな」
「人の夢にケチつけるなよ」
「へへ。それよりさ……」

 と、また例の彼女、裕美さんの話になる。これが始まると、僕は脳も耳も半分だけ傾けることにしてるんだ。

 ――――夢か。あれも一過性のものだったのか。

 僕も実は、あの夢が気になっていた。だから、織田信永の小姓のことなんか調べたりしたんだ。
 それによると、大名や有力武将には普通に小姓がいて、家臣たちが自分の息子を顔つなぎ目的に差し出してたんだね。
 自分も息子本人にとっても出世の大きな足掛かりになってた。だから小姓たちも列記とした武士の血筋なんだ。当然戦にも出るし、小姓を終えて名のある武将になった人物もいる。

 役割は主君の身の回りの世話や家臣への伝達。そしてやっぱり夜の共もしてた。あの有名な家臣、『前田年家』も、信永の小姓時代は愛人だったという史実も残ってる。
 昔は武士は二道をきわめてこそと言われてたの、マジだったんだなあ。



 で、僕の夢にいつも出てくる『瀬那』っていう小姓。その名前は一覧になかった。真豪っていう武将も。
 あれは結局僕の頭の中で作られた架空の人物なんかね。氏名不明の小姓や武将もいるから何とも言えんけど、明らかになってない名前を知ってるはずもないし、無意識な創作なんだろう。

 けど、こういう背景を僕は知らないはずだったのに夢に見るのはおかしな話だ。子供の頃に見た時代劇で、潜在意識にインプットされてたのかな。
 蘭丸以外に小姓がいたのも、どこかで聞いたことがあったように思うし、多分そういうことなんだろう。

 時代劇はじいちゃんが好きで、ビデオを横で見てたし、謎の壺を磨きながら、信永や光英の話もしてくれた。そんなのが何となく繋がってできた物語なんだろうなあ。

「あれを繋いで、時代小説書けんじゃないの?」

 上白石は能天気に言う。けど、語学力とか文才とか一切ないからこその理系だよ、僕は。
 せっかく調べたのに。それとも調べちゃったからかこの頃は夢に出なくなった。もっとも今は、冬真がいっつも出てきて僕を惑わせるんだけどね。


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