時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第24話 未知の世界

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 あの夜。僕は珈琲を頂いて自分の部屋に戻った。僕はそのまま水無瀬先輩といたかったし、その……もっと進めてもいいって思ってたんだ。
 別に覚悟していったわけじゃないけど。完全に盛り上がってて流されたかったんだ。けど……。

『ゆっくり進めればいい』

 と言われて、すごすご戻ることになった。眠れない夜を過ごすかと思ったけど、お酒も入ってたから、結局ベッドに入ったら即効寝てしまった。夢も見なかったよ。



「おはよう。おまえ、いつの間に帰ったん? 気になった子いなかったか」

 土日を挟んで月曜日の朝、上白石がいつもの軽い調子で寄って来た。なんだ、やっぱり僕が帰ったの知らなかったんだ。

「帰るって言ったろ。ま、上白石はロンゲの彼女口説くのに忙しそうだったからな。結局どうなった?」

 上白石は目を細め、にやあと口角を上げる。

「まあまあだよ。連絡先交換したし、今度二人で会うことになった」
「へえ。そりゃ良かったじゃないか」
「ああ。でも、おまえとはちゃんと遊んでやるからな」

 はあ。それはありがとう。でも、僕も上白石と遊ぶ時間はないかも。なんて。
 とはいえ、今回わかったのは、水無瀬先輩は本気で忙しいということだった。早朝鍛錬から始まって、理工学部の学生として、日本武道界を支える師範、広告塔として、一日中動いているんだ。
 だからあの夜も、早く帰したのかもと思った。土日だって、全然相手してもらえなかったんだ……。



『花宮、これはなんて読むんだ? ケイ、かな』

 昨夜、少しだけ先輩は僕の部屋に来てくれた。ライン来てすぐ、慌てて片づけたよ。先輩は小さなテーブルの上に置いた学生証を眺め、聞いてきた。

「はい、佳衣でケイです。ちなみに妹は麻に衣でマイです。両親の趣味かな」
「そうか、良い名だな」
「どうかな。妹はともかく、僕はまともに読まれたことないし……」
「響きがいいし、字も美しいよ」
「そうでしょうか」

 水無瀬先輩にそう言われると、そんな気になって嬉しかった。

「じゃあ、私は君のことをケイと呼ぼう。いいかな」
「あ、はい。それは全然かまいません」
「うん。じゃあケイ、私に敬語を話す必要はない。ついでに言えば、先輩呼びもやめてくれ」
「ええっ! そんな……」

 急にそんなこと言われても。水無瀬先輩は2学年も上なんだ。というか、もっと年上に見えるくらいなのに。

「私はケイと対等の立場でいたいと思ってる。だから……」

 全然対等じゃないとおもうんだけど。でも切れ長の双眸を向け、真摯な表情で請われたら、僕は頷くしかない。

「ん。努力しま、する」

 突然始まった僕の恋は、未知の世界への突入だ。女性ともまともに付き合ったことないのに、いきなりハードルが高い。
 けど、この胸の高まりは抑えようもなくて、僕は今まで味わったことがないくらい幸福を感じていた。



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