時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第31話 夏休みの計画

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 相合傘から三日後、関東地域は梅雨入りした。僕が最も好きになれない季節だ。毎日相合傘できるなら、もう少しマシな印象になるかもだけど。まさか何度も傘を忘れるわけにはいかないよ。

 けど、今はこの梅雨よりも憂鬱なことがある。梅雨が明ける頃、大学では前期の試験週間が始まる。そして夏がくると同時に夏休みだ。
 試験週間も十分に憂鬱だけど、僕はそれよりも、学生の誰もが楽しみにしている夏休みが憂鬱なんだ。

「花宮、夏休みどうすんの?」

 そんな僕の気持なんか知るはずもない上白石が尋ねてくる。バイトも終わり、すきっ腹にラーメンを食べながら。

「ええ? まあ、バイトあるし」
「なんだよ、水無瀬先輩と旅行行ったりしないのかよ」

 ケヘヘと十分に卑猥な笑い方をする。ああでも、冬真と旅行できたらどんなに嬉しいか。旅行先なら、大胆にもなれて……今は妄想するの止めよう。

「わかんない。冬真は夏も忙しいんじゃないかな」

 遠方への出張指導や子供大会の審査なんかもあるみたいだし、僕のことなんかほったらかしだよ、きっと。

「そうか。だよな。夏休みは色んな場所で大会やら演武会あるから」

 僕よりずっと武道業界に詳しい上白石が言うのだから間違いない。ちなみにこいつは観るオタクだから自分ではジムに通う程度くらいしかやっていない。

「上白石はどうすんの? 裕美さんとそれこそ旅行行かないのか?」

 裕美さんとは、その後も順調にいってるらしい。

「ああ、どうかな。彼女、実家に帰るらしいから。でも、USLには行く」

 なるほど、確か彼女は関西出身だったな。

「実家か……僕も実家には帰らないといけないんだ」
「へえ、いいじゃないか、たまにはお母さんの手料理、食べたいんじゃないのか?」

 先月、僕は上白石の家に招待され、上白石母がもてなしてくれた御馳走を美味しくいただいた。確かにそのときは、家のこと思い出したけど。

「まあね」

 けど、帰省するのはそれだけでは済まないんだ。それをここでこいつに説明しても仕方ない。僕は曖昧な笑顔で誤魔化した。



 けど、夏休みの計画か。まだ先の話だし、帰省以外なにも考えてなかった。冬真に聞いてみようかな。少しくらい、一緒に過ごせないかって……。

 ――――1泊でもいいんだ。ホテルでも旅館でも、いや、テントだって構わない。そういう場所なら、『先に進めよう』って思うんじゃ。

 と、ここまで考えて、僕は妄想を止めた。なんだかこれでは、めっちゃヤリたがってる思春期のガキみたいだ。まあ、男子大学生の多くは実践的にヤリたい奴ばかりなんだけど。

 ――――冬真は、そういうこと全くなさそうだしなあ。武士は食わねど……みたいな。

 そんな無理しないで食っちゃってよ。なんて言えるわけない。無理してないって言われそうだから。



 ところが、思わぬことで、僕は冬真と旅行することになった。いや、厳密にいうと旅行ではないのだけど。


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