時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第32話 深夜の襲撃

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 事の発端は、梅雨明けを待つように始まった前期試験の真っ最中に起きた。都会の暑さに辟易していた時だ。
 冷蔵庫に飲み物がないのに気付いた僕は、夜中だけどコンビニに買い物に出かけた。ついでにアイスも買ってこよう、なんて思って。

「ケイ、こんな夜中にどこ行くんだ?」

 玄関口でちょうど帰宅してきた冬真と出会った。この時間だと、いつも黒塗りの大きな車が送ってくるんだよね。水無瀬家の所有車か武術界のかはわからないけれど。

「コンビニ。アイス買いに行こうと思って」
「そうか……じゃあ私も行こう。アイス食べたい」

 冬真がアイスを食べたいなんて、なんだかギャップ萌えしそうだ。けど、おそらく僕が夜中にうろうろうするのが嫌なんだよ。
 誤解は解いたとはいえ、一度はチンピラに絡まれたし。子供じゃないって言いたいところだけど、一緒に歩くのは嬉しい。

「勉強、大丈夫か?」

 結局僕は、心がスキップしたくなるくらいには弾んでる。

「なんとか。冬真は? 三回生だって試験あるんだろ?」
「私は問題ない。試験とはいえ、なにも特別なことはない」

 さいですか……。以前、上白石が言ったように、冬真は成績も抜群なんだ。単位もほとんど履修済みらしいし。

「あの……冬真」
「なにか?」

 僕はこんな時期になっても、まだ聞けてないことがあった。今こそそのチャンスだ。

「夏休み、二人でどこかに行かない?」

 物凄く緊張した。既にカラカラだった喉が、乾きすぎて張り付いてるよ。

「え……あ、ああ」

 言いにくそうにしてる。僕は凹んだ思いで冬真の表情を覗き見た。あれ……なんか変。
 場所は広い道路に差し掛かる生活道路だった。深夜だから車はほとんど通らない。冬真はそこで、ぴたりと足を止めた。僕も慌てて立ち止まる。さっきまで話してたのに、突然その表情は険しくなった。

「囲まれてる」
「えっ!」

 びくりと僕の背が伸びた時、ワラワラと物陰から動くものがあった。

「おやおや。そちらの背の高い兄ちゃんは、随分と勘がいいようだな」

 街路灯がぼんやりと照らす道路に、この暑いのにスーツ姿の男性が現れた。それを合図のように、何人もの男たちが僕らを取り囲む。

「なんの用だ」

 冬真は全く動ぜず、普通に会話するように聞いた。見回せば、スーツ姿は一人だけで、他の連中は自己顕示欲を満足させるような派手シャツにカラーズボン。ただ、この間のチンピラよりもずっと本物感があった。

「あんたには用はないんだよ。そこの可愛い子に用があってね」

 僕に用事……まさかまた?

「私の連れに用があるなら、それは同じことだ」

 冬真が僕を自分の手と体で隠すように動いた。けど、僕は違うことで頭に血
が上ってしまったんだ。

「おまえら、また親父かおじさんに頼まれたのかっ!? いい加減にしろよ。夏に帰るって言ってんだろがっ!」

 思わず冬真の腕を無視して、怒鳴ってしまった。

「ケイっ!」

 慌てた冬真が僕を制す。

「ワケのわからんこと吠えてんじゃねえ! 大人しく来てもらおうっ」

 それが合図だったのだろうか、周りを取り囲んだ男たちが、怒涛のように僕らに向かってきた。


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