時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第33話 乱闘

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 静かな生活道路は乱闘の場に一変した。騒ぎを聞きつけた住民の誰かが警察を呼んでくれそうなものだが、それでも時間はかかるだろう。

「冬真っ! 逃げて!」
「何言ってる」

 彼らの目的は僕だ。なら、そんな手荒なことはしないはずだ。冬真は手を出せないし、さっさと捕まったほうがいいんじゃないか。
 警察が来るまでやり過ごせばいい。そう思ったんだ。けど、それは僕の大いなる勘違いだったらしい。

「逃がすかっ!」

 ザッと足を進ませる音がした。同時に目に飛び込んできたのは、街頭に照らされた連中の手元に光るもの。

「ど、どうしてっ!?」

 ナイフだけじゃない。バットみたいなのを持ってる奴もいる。もしかして、冬真に危害を加えるつもりか。

 ――――冗談じゃないっ!

 僕は寄せばいいのに、斜め掛けしてたショルダーバックを外し振り回そうとした。

「下がってろ、ケイ」

 けど、その腕を掴んだのは、連中ではなく冬真だった。

「私から離れるな」

 風の音のような、なんの高揚もなく僕の耳に届いた冬真の声。それからは、全てがまるでコマ送りのような世界だった。
 僕を背中に背負いながら、男たちが振るうナイフもバットも無駄なく避け、鋭い手刀や蹴りで倒していく。文字通り、ばったばったと男たちは道路に伏していったのだ。

 その様は美しい軌道に乗った舞踏。あの、演武会で見た見事なまでの軌道と寸分違わなかった。

「ガキが舐めんなっ!」

 スーツの男が何かを内ポケットから出そうとした。ビリッと静電気のようなものが立つ。だがそのとき、パトカーの音が夜をつんざいた。良かった。誰かが呼んでくれたんだっ!

「くそっ、行くぞ!」

 スーツは舌打ちをし、踵を返す。道路を這いずってた連中もふらふらと逃げ出していった。

「ケイ、私たちも逃げるぞ。いささかやり過ぎたかもしれん」
「あ、うんっ!」

 握られた手を強く握り返し、連中とは反対方向の、僕らは闇の中へと走り逃げた。



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