時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第36話 ゲーム

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 最初はみんな、本気にしなかった。最も高価といっても数十万程度じゃないかと。全ての骨董を合わせても百万超えるかどうかだ。
 たとえそれをもらったとしても、他の無限にある骨董(ガラクタ)を管理、処分したら、そっちのほうが高くつきそうだ。というもっともな意見。
 ただ、岩井さんによれば、じいちゃんは『最も価値のあるものは数百万から1,000万の価値はあるはず』と言っていたそうだ。

 長男と次男の伯父さんたちは、『付き合っておれん。どうせ、金には代えられない思い出の品、とかいう童話みたいなオチだ。全部おまえらにやるから、好きに探せ』と帰ってしまった。
 他の3人も、散々悪態吐いてたんだけど。

 結局、本当にお金に困っていた和重叔父さんと良枝叔母さんは、興味のないフリをして、探し始めたんだ。
 ただ、この遺書には続きがあって、これと決めた品には、じいちゃんが定めた鑑定士に見せなければならない。それで、その品が間違いなく最も高価なものなら、その人の勝ちとなるんだ。それだけじゃない。

「彼には1家族、3品までしか鑑定していただけません」

 そんな馬鹿げたルールがあった。つまりこれは、ゲームなんだ。

 叔父さん、叔母さん、それと親父は、既に2品ずつ鑑定してもらってる。もちろん空振り。親父なんか2品とも千円台だったんだよ。笑えるよね。いや、実は笑えなかった。

『佳衣、おまえじいさんに可愛がられてただろ? なんか思いあたることはないか? じいさんが大事にしてたのとか。心当たりあるだろう』

 僕が受験生にも関わらず、親父は何度もそう言って、屋敷や蔵を探させた。そんなの聞いてないし、聞いた覚えもないよ。麻衣も同様に、つつかれてたけど、あいつはうまい具合に逃げてたなあ。

 タイムリミットが今年の初盆になってたから、そのうち叔父さんや叔母さんたちにも詰め寄られるようになって。それでもう堪らなくなって僕は東京に逃げてきたんだ。

「都合よく、志望大学が東京だったから。浪人しなくてよかったよ」
「そうか、それは辛かったな……」

 実家のあるA県に向かう新幹線のなか、僕は冬真と話してた。簡単には説明してたけど、詳しいことを話すのはこれが初めてだ。僕は試験中だったし、冬真はこの旅行のために色々調整してて忙しかったから。

「じいちゃんがあの田舎の山に居た頃は、誰も寄り付きもしなかったのに、遺産欲しさにやってきてさ。それが一番嫌だったんだ。見つけたいなら、勝手にやればいい」

 車窓の向こうに映る景色、静岡に差し掛かると海が視界に広がってくる。きらきらと太陽が波に反射して眩しいほどだ。
 こんなに世界は美しいのに、どうして気持ちは暗くなる一方なんだろう。右隣には、僕が大好きな冬真がいるっていうのに。

「ケイは、それを探し当てるつもりなのか? 今回の帰省を決意したのは」
「そうしないと……終わらないと思うんだ。誰のものになるのか知らないけど、じいちゃんも見つけて欲しいのかもしれないし」

 本当にそうだろうか。もしそうなら、こんなゲームするだろうか。

 ――――そうだ。僕は考えてみたことがなかった。じいちゃんはこういう洒落たことが好きではあったけど、わざわざどうして、こんなゲームを始めたのか。

 そこにこそ、答えはあるのかも。
 僕は肘掛に乗せられた冬真の大きな手を見つめる。なんとなく触れたくて、そっと自分の手を重ねる。
 冬真はウトウトしていたのか、ぴくりと指を動かした。それでも僕の指に指を絡め、ぎゅっと握り返してくれた。


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