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第54話 思い出の品
しおりを挟む新幹線と言えど、デッキに移ると多少揺れが生じる。僕らは壁に体を預け、話に没頭した。ほとんどが僕が話し、冬真がたまに相槌を打つ形ではあったけれど。
「そうか……それは不思議な夢だな」
僕は今まで見た夢を順番に、時系列はどうなってるかわからないので、見た順に話した。と言っても、最後のベッドインはさすがに話せなかった。ここはまあ……省略可能だろう。
「想像にしても、妙にリアルでさ……けど、調べたところ、瀬那とか真豪とかいう人物は歴史上にいなかった」
「そうだな。私も聞いたことはない」
冬真は歴史も詳しい。戦国武将や大名なら全部そらんじるくらいは。やはり、僕が作り出した人物なんだろうか。
「お祖父さんが、ケイの夢見に立ったのかもな。あの茶碗に気付くよう」
「まさか……。いくらなんでもまどろっこしいよ」
「それでも、あの茶碗がおじいさんのいう、価値の高いものである可能性は高いな」
結局なんの解決にもならなかったけれど、僕はずっと気持ちが安定した。
冬真は元々、僕があの茶碗に固執したからこそ、じいちゃんの手紙を持ってきてたんだ。そのなかに、茶碗のルーツが分かる文面があるんじゃないかって思って。改めて冬真の思慮深さに僕は感動した。
今回、思わぬことが発端で僕のおかしな夢を冬真と共有することができた。じいちゃんの遺産と関係があったらマジでびっくりだけど、一笑に付したりせず、ちゃんと聞いてくれた。
これが麻衣や両親に言ったら。多分大笑いされて終わりだろう。
両親と言えば、アパートに着いてから、母さんから電話があった。僕が聞いた『ずんぐりしたお茶碗』のことだ。
『父さんとの結婚前にね。見せられたことがあったのを思い出したのよ』
新居に引っ越す数日前、ばあちゃんは母さんに一客の茶碗を見せた。これはご先祖様からその家の長女が受け継いできたものだと。
持っていれば結婚生活に大事ないと伝えられているから持って行けと言われたらしい。
『けど、私は茶道なんてやらないしね。妹の良枝に上げてって言ったのよ。だって、随分形は悪いし価値なさそうだったから。なに、それまだ、あそこにあったの?』
僕はどう答えようか一瞬迷った。母さんを疑うわけじゃない。けど、良枝叔母さんや和重叔父さんに嗅ぎ付けられると面倒だ。例の怖いおっさん連中のこともあるし。
「ああ。なんかばあちゃんの思い出の品みたいだったから気になって。でも、古いだけで価値はないものだよ。水無瀬先輩が言ってたから」
『そうなんだ。もらわないって言ったら、確かに寂しそうな顔してたもんなあ。良枝も多分、同じように受け取らなかったんだと思うわ』
価値がわからないものには、渡さない。多分、ばあちゃんはそう思ったのかもしれない。
蔵の中にしまったのはじいちゃんだろうか。ばあちゃんが生きてた時は、ばあちゃんの部屋にあったんじゃないかな。
僕はばあちゃんが懐かしそうな笑顔を浮かべて、この茶器を眺めている様をどこかで見たような、そんな気がした。
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