時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第65話 結婚記念日

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 僕の隣で、冬真は整然とした様子でいる。僕はと言えば、まだ5分しか経っていないのにもう、足がしびれだしていた。座布団の上でも、慣れない正座は辛い。

「先ほどは失礼しました。最近、テレビなんかでも不届き者の報道がありますでしょ? てっきりよからぬ輩かと」
「いえ。不審者に見えたとしたら、まだまだ修行が足りないようです」

 しゃあしゃあと冬真が応える。意外にカチンと来てるのかも。にしても、足が……。
 僕らに声をかけてきたのは、この寺の副住職、上林(かんばやし)さん。香坂家の菩提寺に修行時代から仕えているとのことだった。
 このところ巷には、賽銭泥棒や金属類を盗む連中が現れ、寺や神社も被害を被っている。こんな真昼間とはいえ、見覚えのない若い男二人が香坂家の墓でうろうろしてたら、やっぱり怪しいと思うか。

「それで……香坂さんとはどないなご関係で?」

 上林さんは、僕らを本殿の応接間に招いてくれ、冷たい麦茶を用意してくれた。カラカラだった喉を潤し、冬真の怒りも多少は収まったかな。

「あの、上林さんは、笠松美代子という女性をご存じないですか? 高齢の……でも背は高い方で痩せてる……何度かお参りに来てると思うんですが……」

 可能性は低いが、ばあちゃんが時折ここに来てたなら、知っているかもしれない。僕だって香坂さんとどういう関係なのかわからないんだから、ここに賭けるしかないんだ。

「笠松さん……ああ、あのすらっとした方かな。若い頃からずっと来られてた……けど、ここ数年は来られてないような」
「あ、多分そうかと。僕の祖母なんですが。実は、一昨年亡くなりました」

 上林さんは、一瞬息を呑み。それから眉を下げ、瞼を落とした。

「そうでしたか……。何度か話をさせてもらってました。私がここへ来てからしかわかりませんが、毎年、梅が咲く頃に来られてたんです」
「僕も一度だけですが、連れてきてもらったことがありました」

「そうやったんですか。それは本当に失礼しました。私もお名前までは存じ上げなかったんですが。お話したとき、『結婚記念日』に来られると言われて。それでずっと覚えておったんです」

 結婚記念日。自分の結婚記念日に祖母は香坂家の墓参りに? 僕は念のために、祖母の写真データを見せてみた。上林さんは目を細め、間違いないと懐かしそうに頷いた。

「私たちは、香坂さんとおばあさんがどういう関係だったのかよくわからないのです。ここにお参りに来られていたわけ、なにか心当たりはないでしょうか」
「そうですなあ。何度かお話したときに印象に残ったんは、『結婚記念日』の話で。なんでですか? って聞いたんです。そしたら……」



『この奥の墓標にお参りいくようにと。それが私の家に伝わる「あるもの」を受け継ぐときに言われたんです。
 もらった時に一度だけでいいみたいだけど、私は欲張りだから毎年来てるんです。幸せな結婚生活を送れるおまじないです』
『それは、ええもんもらわれましたなあ』
『はい。5人の子供に恵まれて、とても幸せなんです』

 その頃の祖母はまだ若かったようで、弾けるような笑顔を上林さんに見せたという。
 奥の墓石は、香坂家の墓のなかでもこじんまりとした小さなもので、誰のものかは不明だと上林さん。ただ、かなり古いので、香坂家がこの地にやってきた、室町から戦国時代のものではないかと教えてくれた。
 

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