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第3章 帰還
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しおりを挟む「お仕事中すみません。私、雨ケ谷警察署の鮫島と申します」
警察手帳を見せてから、名刺を渡してくれた。警部補とある。偉いのかそうでないのか、成行にはわからなかった。若いほうの刑事も同様に名刺を差し出す。『真壁和也』こちらは巡査部長とあった。
「実は、私どもは、『女子大生連続殺人事件』を担当しておりまして」
三人とも椅子に座ったところで、鮫島が切り出した。
「女子大生連続殺人事件……?」
そういえば……と思い出す。その頃付き合っていた奈津美が、怖がっていたような。都内での出来事だから、不安になるのも無理はない。成行も夜遅くなるときは、必ず自宅まで送っていた。
「え……と、それが僕となにか?」
「ええ。どこから話せばいいものか。まずはこれをご覧ください」
鮫島に促され、真壁が鞄からA5サイズほどのタブレットを取り出した。それを成行に見えるように置き、起動させる。
「あ、これ……僕ですね?」
防犯カメラの映像だろう。茶髪に天然パーマ。見覚えのあるジャケットを着た自分が歩いている。動かすと、急いでいるのか足早にカメラの前を通り過ぎて行った。
「実は、この日時、昨年の3月25日なのですが、このカメラが設置されている付近で事件が起こったんです」
「はっ!? えっと……それって……」
まさかと思うが自分が疑われてるのか? 突然の展開に成行はまたパニックに陥りそうになる。自分は殺人犯だったのか? それで逃げてたとか? いやいや、ちょっと待て。
「あ、お間違いなく。我々は佐納さんを被疑者とは思っていないんです。まあ、そう思った時もありますが」
慌てて顔の前で右手を振る鮫島だが、付け足した言葉に成行は当然反応した。
「思った時もあったって……」
「それはほら、事件の後すぐ、行方をくらまされたので」
「好きでくらましたんじゃないです……」
恨めしそうに二人を睨みながら成行がつぶやいた。
「奴は連続犯です。他の事件のアリバイがある佐納さんでは無理だとわかっています。それに……」
「それに?」
「この日、有力な目撃者がいましてね、その服装が佐納さんとは全く違うんです。佐納さんは白っぽいジャケットを着ておられるでしょ?」
「あ、はい」
本当はアイボリーなのだが。お気に入りの……渉が見立ててくれたテーラードジャケットだ。そういえば、あれはどこにいったのか。と考えてすぐ思いつく。何もかも忘れた自分が着ていたのだ。あの男性の部屋にあったりするんだろう。成行は背筋がぶるっとするのを感じた。
「目撃では濃いグレーか黒とのことでした。それに、こんな白いんじゃ返り血浴びちゃって大変です」
そんなこんなで疑いそのものは晴れたらしい。
「我々は、最悪あなたが事件を目撃して、まあその、殺されたのではと」
「へ? あ、ああ、そうでしたか」
渉が言っていたことをようやく理解した。親にもずいぶん心配させたんだな。今更ながら申し訳なく思う成行だった。
「で、記憶をなくされてたとのことですが」
「あ、はあ。それも全くわからないんですけどね。記憶をなくしてたってことも忘れてて……S県に居たみたいなんですが、全く覚えてない。ただ知らない間に1年経ってた。って感じです」
昏睡状態のまま月日が経った。それが成行にとって一番しっくりいく状況だった。その間、本当に眠ったままならよかったのに。と、いつも思う。過去を思い出したあの日、慌てて乗ったバス停の名前も今では思い出せない。あの直後知った衝撃的な事実に、全部持って行かれてしまったのだ。
「その、事件を目撃したことは思い出せませんか? 記憶をなくされる直前のことだと思うのですが」
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