【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺

文字の大きさ
24 / 66
第3章 帰還

(7)

しおりを挟む


「お仕事中すみません。私、雨ケ谷警察署の鮫島と申します」

 警察手帳を見せてから、名刺を渡してくれた。警部補とある。偉いのかそうでないのか、成行にはわからなかった。若いほうの刑事も同様に名刺を差し出す。『真壁和也』こちらは巡査部長とあった。

「実は、私どもは、『女子大生連続殺人事件』を担当しておりまして」

 三人とも椅子に座ったところで、鮫島が切り出した。

「女子大生連続殺人事件……?」

 そういえば……と思い出す。その頃付き合っていた奈津美が、怖がっていたような。都内での出来事だから、不安になるのも無理はない。成行も夜遅くなるときは、必ず自宅まで送っていた。

「え……と、それが僕となにか?」
「ええ。どこから話せばいいものか。まずはこれをご覧ください」

 鮫島に促され、真壁が鞄からA5サイズほどのタブレットを取り出した。それを成行に見えるように置き、起動させる。

「あ、これ……僕ですね?」

 防犯カメラの映像だろう。茶髪に天然パーマ。見覚えのあるジャケットを着た自分が歩いている。動かすと、急いでいるのか足早にカメラの前を通り過ぎて行った。

「実は、この日時、昨年の3月25日なのですが、このカメラが設置されている付近で事件が起こったんです」
「はっ!? えっと……それって……」

 まさかと思うが自分が疑われてるのか? 突然の展開に成行はまたパニックに陥りそうになる。自分は殺人犯だったのか? それで逃げてたとか? いやいや、ちょっと待て。

「あ、お間違いなく。我々は佐納さんを被疑者とは思っていないんです。まあ、そう思った時もありますが」

 慌てて顔の前で右手を振る鮫島だが、付け足した言葉に成行は当然反応した。

「思った時もあったって……」
「それはほら、事件の後すぐ、行方をくらまされたので」
「好きでくらましたんじゃないです……」

 恨めしそうに二人を睨みながら成行がつぶやいた。

「奴は連続犯です。他の事件のアリバイがある佐納さんでは無理だとわかっています。それに……」
「それに?」
「この日、有力な目撃者がいましてね、その服装が佐納さんとは全く違うんです。佐納さんは白っぽいジャケットを着ておられるでしょ?」
「あ、はい」

 本当はアイボリーなのだが。お気に入りの……渉が見立ててくれたテーラードジャケットだ。そういえば、あれはどこにいったのか。と考えてすぐ思いつく。何もかも忘れた自分が着ていたのだ。あの男性の部屋にあったりするんだろう。成行は背筋がぶるっとするのを感じた。

「目撃では濃いグレーか黒とのことでした。それに、こんな白いんじゃ返り血浴びちゃって大変です」

 そんなこんなで疑いそのものは晴れたらしい。

「我々は、最悪あなたが事件を目撃して、まあその、殺されたのではと」
「へ? あ、ああ、そうでしたか」

 渉が言っていたことをようやく理解した。親にもずいぶん心配させたんだな。今更ながら申し訳なく思う成行だった。

「で、記憶をなくされてたとのことですが」
「あ、はあ。それも全くわからないんですけどね。記憶をなくしてたってことも忘れてて……S県に居たみたいなんですが、全く覚えてない。ただ知らない間に1年経ってた。って感じです」

 昏睡状態のまま月日が経った。それが成行にとって一番しっくりいく状況だった。その間、本当に眠ったままならよかったのに。と、いつも思う。過去を思い出したあの日、慌てて乗ったバス停の名前も今では思い出せない。あの直後知った衝撃的な事実に、全部持って行かれてしまったのだ。

「その、事件を目撃したことは思い出せませんか? 記憶をなくされる直前のことだと思うのですが」




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...