【完結】寒風の吹く夜僕は美少年を拾った~砂糖菓子のように甘く切ない恋の物語~

紫紺

文字の大きさ
1 / 70

序章

しおりを挟む


 ロンドンから南西に20キロほど下ると、有名なテニス大会が行われるわが町、ウィンブルドンがある。20年ほど前から始まったこの大会には、全英から選手がこぞってやってくる。整備されつつある汽車に乗り、たくさんの観客も詰めかけるようになっていた。

 そろそろ20世紀の幕開けが迫る世紀末。英国の田舎町で、僕は診療所を開業している。ロンドンの大学で医学を学び故郷に戻ってきた、今年26歳になる健全な青年医師だ。

「イーサン先生、レオ・ブラウン男爵が有罪になったそうですよ」

 看護師のジュリーが僕にそう声をかける。いつものロングスカートに白いいエプロン姿。手には新聞を持っている。僕の前に読んでしまうのはいつものことだ。

「まあ、そうだろうね。旗色悪かったから。貴族様でも出過ぎると打たれるということだよ」
「そんな、年寄りみたいなこと言って。先生、まだ二十代じゃないですか。革新的な考え方はされないんですか?」

「え? いや、新しいものは好きだけど。男色はどうかな。僕は女性がいいよ」
「そうですか? では、さっさと前に進まないと。マリアお嬢様も早くブロポーズして欲しいんじゃないですか?」

 うっ。藪蛇してしまったようだ。僕は長く伸ばした髪を後ろで縛り、丸い眼鏡をかける。実際僕は大学を卒業して間もない青二才だ。父がここにグリフィス診療所を残してくれたお陰で医者を営めるが、まだまだ若造の粋を出ない。
 小さな町の町医者。限られた世界の中で、限られた人々に囲まれ、彼らの健康を維持する。大きな野望を持たない僕は、この世界に十分満足している。だが、結婚となるとまた別の話だ。

 看護師ジュリーの言ったマリアとは、幼馴染のマリアのことだ。僕のプロポーズを待っているかどうかは知らないが、この街の大地主であり一番の富豪、ホワイト家の次女。
 幼馴染と言っても僕よりも五歳年下の紛れもないお嬢様だ。僕とは釣り合いが取れないだろう。恋愛感情は持ったこともないし、僕は僕が好きだと思う人と添い遂げる。そこは譲らないでいたい。

「先生、患者さんいらっしゃいました」
「うん。診療はいつでも始められるよ。入ってもらって」

 ジュリーが置いていった新聞を斜め読む。レオ・ブラウン男爵、貴族出身でありながら稀代の音楽家、加えてプレーボーイである。
 大層な二枚目と聞いているが、新聞の写真はそれほどでもない。どっちかというと僕のほうが顎のあたりがシュッとしてイイ男じゃないかな。とか思って顎を右手でさする。

 彼は男にも女にもモテたようで、有罪の罪状は男色だ。街にはガス灯が光り輝き、蒸気機関車が凄いスピードで走り抜ける。そんな時代でも、愛し合うのは男と女と定められていた。
 僕はあいにくどちらの性にもモテたことはないが、できれば女性に思われたいと思う凡人だ。レオ・ブラウンはさる高貴な子息に手を出した。それが公になり、父親に訴えられたようだ。

 ――――貧乏男爵から成りあがった……派手な奴だったからな。やっかみもあったんだろう。

 さて、1人目の患者さんが診察室に入って来た。今日も悪くない1日でありますように。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

藤吉めぐみ
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

処理中です...