【完結】寒風の吹く夜僕は美少年を拾った~砂糖菓子のように甘く切ない恋の物語~

紫紺

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第2章 獣の目

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「あのおばはん、また俺のこと追い出しにかかってた?」

 午前の診察が終わると、ジュリーは一旦帰宅する。診察室に一人でいる僕に、ジョシュアがそう言った。

「彼女も君のことを心配してるんだ。ここで僕の嫁さん代わりになったら気の毒だと思ったんだろう」
「俺は別にいいけど。イーサン、俺がいなくなったら困るでしょ?」

 今はもう、僕のことをイーサンと呼ぶようになっている。つまり、先生ではなくなったということか。

「僕の心配はしなくていい。サマンサもいるし」

 僕の言葉に、ジョシュアは何故か何も言わなくなった。どうしたのかと彼の顔を見ると、険しい表情をしている。

「どうした? 痛みでもあるのか?」
「あ、ああ。まだ痛いよ。だからもう少しここに置いて」

 さっきまでのらしからぬ顔は一変し、いたずらっ子のように笑う。その様子に僕はまた一抹の不安を覚えた。『また』、というのは、先ほどジュリーが言った『女豹』の目だ。僕はその目を確かに見た。と、思う。


 それはつい先日のことだ。その日はマリアが診療所に来ていた。フリルをふんだんにあしらったロングドレスに上等な毛皮のコートを羽織り、女性らしくウェストを絞った出で立ちだ。とても町医者に来た様子でもない。
 ジュリーは殊の外、彼女の美しさ、可愛らしさをほめたたえた。

「今日はどうしたんだ? 何かこの後用事でもあるの?」

 父親の薬を取りに来たという彼女はにこやかにこう言った。

「これからお茶会が屋敷であるのよ。せっかく着飾ったから、イーサンにも見てもらいたかったんだけど……忙しくないようなら、お茶会に来ない? お父様も貴方なら来てもいいって」

 僕なんかに見てもらいたくて、わざわざ馬車に乗って来たのだと言う。お茶会はさぞ退屈な人物の集まりなのだろうな。
 僕はそういう上流階級の集まりが苦手だったし、好きでもなかった。

「遠慮しておくよ。君の綺麗な姿は見ることができたしね」

 彼女は残念そうな顔をしたけれど、諦めて帰ろうと席を立つ。

「そう言えば、入院されている方がいるそうね?」

 誰が言ったのだろう。いや、こんな小さな町。今や知らない人はいないのではないか。例え雪の到来が近いこの季節であっても、人の口に戸は立てられないものだ。

「ああ、随分良くなったけれど、もうしばらくはかかるかな」

 曖昧な言い方をする僕に、マリアも曖昧な笑みを浮かべる。

「彼……さっき表で見かけたわ。馬車を下りるときに。綺麗な子ね」

 表? 滅多に外に出ないというのに、何をしていたのだろう。馬車が珍しかったとか? まさか、今時どんな田舎だって走ってる。

 それだけ言うと、マリアは帰っていった。僕がジョシュアの獣の目を見たのはその夜だった。



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