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第2章 獣の目
(5)
しおりを挟む「やめなさい」
毅然として言ったつもりだったが、僕の口から零れたのは不用意な上ずった声だった。
「どうして? イーサンは僕が怖いの?」
怖いだと? ……そうだ。僕は君が怖い。ジョシュアに魅入られていく自分が……怖い。
「こんな……ことは良くないから」
「なにそれ。俺はイーサンが好きなだけだ。キスして欲しいだけだよ」
僕の鼻のすぐ下で、彼は笑っている。挑発するようにサファイア色の瞳を輝かせながら。暖炉の炎が体に乗り移ったかのように熱い。ずっと隠し持っていたジョシュアへの気持ちが溶けて露呈していく。
そうだ。僕は自分をずっと偽っていた。彼をここに閉じ込めたいのは自分だ。医者としてもっともらしいことをほざき、あげくに弟のようだと思おうとしたり。それは全部嘘だ。
こんな感情が自分に、しかも少年に向けて沸き起こるなんて思ってもみなかった。自分に怯え、ジョシュアの憂える瞳に翻弄されていたんだ。
――――越えては、いけない、線……でも……。
「キスする……だけだ」
何を言ってるんだ、ぼくは。自らを欺くかのようにこんな愚にもつかない言い訳を……。
「ああ、キスするだけだよ」
ジョシュアは長い睫毛をそっと降ろし、細い顎を少しだけ上げた。桃の花のような唇が僕の視界を独占した。
僕は彼を突き飛ばし、跳ねのけることは十分にできた。そのチャンスはずっとあったのだ。
だが、僕はそうはしなかった。いや、出来なかった。柔らかい彼の唇が触れると、全ての感覚がそこに集中していくのを感じた。堰を切ったように流れ出る僕の感情。彼の熱情に注がれていけば混ざりあってより熱を放つ。
「好きだ。イーサン……嬉しい……」
吐息とともにジョシュアが唇を震わせている。それに呼応するようにおのれの唇が彼のそれに這う。僕は両腕を彼の背に回し抱き寄せると、華奢な彼を壊すほど強く抱きしめていた。
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