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第2章 獣の目
(4)
しおりを挟むそれからジョシュアは毎晩、僕の寝床に忍び込むようになった。それはどういうわけかいつも深夜なので、僕は起きるのも面倒で寝たふりをした。
最初の夜に見せた妖しい瞳の光も見ないで済む。ジュリーに言われてから、逆に意識してしまった僕だったが、彼との添い寝をやめられなかった。
――――しかし、こんな体たらくをジュリーに見られでもしたら。新たなレオ・ブラウン事件に仕立て上げられてしまうかな。
そう思うと、朝はゆっくり眠ることはできなかった。朝日が昇る前に目を覚まし、ベッドを出る。居間の暖炉に火をくべると、そこにジョシュアを運んで寝かせた。
「暖かい……」
ソファーの上にジョシュアを寝かせると、彼が目を覚ました。毎度のことだ。だが、彼は陽がすっかり昇りきるまで起きない。なのでそのまま二度寝に入る。
「君はまた寝るんだろう」
「イーサンは起きるの?」
「当たり前だ。起きて朝食を作る。ジョシュアは朝弱いからな」
ジョシュアは僕の首に両腕をかけたまま、少し薄い唇の回りに濡れた舌を這わす。
「イーサンの焼くスコーンが好きだよ」
「僕は温めてるだけだけど?」
「それでもそれが好きだ。だから、朝は起きない」
「困った子だね」
僕は首の後ろに絡まっている彼の両腕を振りほどこうした。だが今朝に限って、どういうわけかジョシュアはその手に力を籠め自分の方に引き寄せた。
「おい、こら何の真似だ」
「キスして」
お互いの鼻がこすれ合うほどの距離で、ジョシュアはそう言った。
「はあ?」
それはいつか見た危ない瞳だ。僕は首とつっかえ棒と化した両手に力を入れた。
「いつも言ってるだろ? 大人をからかうなと」
「からかってないよ。俺はイーサンが好きだ。それともイーサンはコルセットでウェストを締め上げてる女が好きなの?」
大概の女性が胸を大きく開き、腰を細く見せ、その下のスカートを膨らませるためにコルセットで締め上げている。気の毒なものだとは思うが、それもまた美しい姿なのは間違いない。
ジョシュアは多分、診療所に訪れるご婦人方、特に先日やってきたマリアのことを言ってるのだろう。
「君、マリアを見るために表にいたのか?」
すぐそこに毒をはらむジョシュアの双眸を見つめながら、僕はそう尋ねた。目の端には僕の長い栗色の髪が、彼の頬や金色の髪に落ちているのが見える。
「マリア、そんな名前聞きたくないよ。あんなにゴテゴテした馬車、ロンドンじゃ見掛けない。誰が来たのかと思っただけだよ。あの女、イーサンのなんなの?」
「そんな下品な言い方はするな。彼女はただの幼馴染だ。いいから、手をどけなさい」
「嫌だ。キスしてくれるまで離さない」
そう言うと、ジョシュアは少し顔を傾けて、僕の唇に自分のそれを近づけてきた。
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