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第6章 イーサンの苦悩
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しおりを挟むウィンブルドン随一の名家であるホワイト家でのクリスマスパーティは、毎年、街の名士たちが招待される一大イベントだった。
自分の領民でもある住民だが、代議士、弁護士、医師、地主、会社社長など、一端の肩書を持った者とその家族たちだけが招かれる。大勢の人々が豪勢な料理とダンスに興じた。
「お招きいただきまして」
僕は毎年そのパーティに出掛けている。正直好きではない集まりだったが、父親の代からの習慣だし、マリア直々に招待状をくれるので断り切れない。
「ようこそ、イーサン。キャサリン、久しぶりね! フランク大きくなったこと」
この日しか着ない黒の礼服に身を包んだ僕に、マリアははち切れんばかりの笑顔で迎えてくれた。
「ジョシュアもよく来てくれたわね。その服、とても似合うわよ。ハンサムさんは何を着ても映えるわね」
ジョシュアには僕が五年前に着ていた黒服を着せた。サイズが少し大きかったがそれでもマリアが言う通り、背筋が伸びて足の長い彼は十分に着こなしていた。
「こんばんは。素敵なパーティに招待いただき喜んでいます」
と、ここでも大人の挨拶をしていた。
立食を楽しみながら歓談していると、楽団の演奏曲がワルツに変わる。つまりここで踊れと言うのだ。毎年この瞬間が僕には苦痛だった。僕は踊れない。
もちろん、高校生の時も大学生の時も一通りダンスのレッスンはある。男相手に踊りの練習だ。でも、僕はその授業でも全く踊れなかった。
「イーサン、マリアに恥をかかせては駄目よ」
姉が俺の耳元でそう囁く。別に恥をかかせるつもりはない。だから誘いにいかないのだ。
彼女には我先に名乗りを上げる若い男がひっきりなしなのだ。なんで足を踏むばかりの僕が誘いに行く必要があると思うのか、全く意味不明だ。
「先生、何してるんですか!」
ジュリーまでやってきた。いい加減にして欲しい。僕はこの壁から絶対動かない。そう宣言するように憮然としたまま突っ立っていた。
マリアがチラチラと僕の方を見ているのは気づいたが、彼女のほうがよくわかっているはずだ。僕が踊れないことを。
すると、驚くことが起こった。同じように僕の隣にいたジョシュアに、果敢にもお誘いをする女性がいたのだ。
その娘は、まだ少女と呼ぶに相応しい、社交界にデビューしたての初々しい感じだった。それでも髪を女らしく結い、腰をしっかりとコルセットで締め付けシナを作っていた。
「俺でいいの?」
遠慮がちに尋ねるジョシュア。傍にいたジュリーがすかさずこう言った。
「壁に立ってるのは先生だけで十分ですよ。レディーに恥をかかせてはいけません。さっさと行きなさい」
けしかけられたジョシュアは彼女の手を取り、老若男女がステップを踏む演舞場へと進んだ。
「え……?」
軽やかなバイオリンの調べにのった彼のステップは、驚くほど美しく、少女を軽々とワルツに酔わせていった。
誰もが振り向くようなダンスが周囲の人を魅了する。次から次へと彼と踊りたがる女性が列をなし、ジョシュアは楽団の指揮者が指揮棒を降ろすまで踊り続ける羽目になった。
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