【完結】寒風の吹く夜僕は美少年を拾った~砂糖菓子のように甘く切ない恋の物語~

紫紺

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第9章 誤解

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 翌日。手の込んだレースのカーテンから陽の光が差し、邸宅を囲む樹々を忙しなく飛び回る鳥たちのさえずりが聞こえてきた。朝が来たようだ。

「イーサン……どうしたの? あなた何故、ここにいるの?」

 僕を見て驚くマリアの声。良かった、目を覚ましたようだった。あの後診察をして、マリアはどうやら貧血だとわかった。もちろん紅茶には何も入っていなかった。
 僕はジョシュアのことが気になったが、マリアを放っておくことが出来なかった。

 ホワイト家の執事に僕の家に行ってもらい、往診の道具を持ってきてもらった。彼に家の様子を聞くと、ジョシュアは戻っていたようだった。僕はとりあえず安堵し、そのまま彼女の傍にいた。
 夜遅くの騒動にマリアの両親も部屋に訪れ、僕にお礼を言う。でも僕は曖昧な謙遜の言葉を述べるしかなかった。もしかしたら、彼女が倒れたのはジョシュアと僕のせいかもしれない。例え、本人の貧血であったとしても。

 ――――それにしても、こんなに遅い時間。ジョシュアはここで何をしていたのだ?

「良かった。心配したよ。お手伝いさんが、君が倒れたと言うから」

 ようやく目を覚まし起き上がるマリアに、僕はベッドの横に置かれた椅子にかけてそう言った。

「ああ、そうか。そうだわ、私突然目の前が暗くなって……そう言えば、ジョシュアはどうしたの? 家に帰ったの?」

 マリアはお手伝いが渡したガウンを羽織り、きょろきょろとあたりを見渡す。

「ジョシュアは帰ったよ。あの……」
「そう、なら良かったわ。来てもらったのに、私ったら」
「え? 来てもらったって。どういうこと? 君がジョシュアを呼んだの?」

 僕の言葉に、マリアは怪訝な顔を向けた。倒れた時は真っ青だったのに今は肌の色もいつものマリアに戻っている。

「何も話していないの? イーサン、あなた、ジョシュアを迎えに来たのではないの?」

 彼女付きのお手伝いがお茶を持ってきた。そこには果物が付け添えてあり、僕にも同じものを運んでくれた。
 サイドテーブルに置かれたお茶を彼女はゆっくりと飲み、ほうっと息をついた。

「迎えに来たのは偶然だよ。僕は……ここに彼がいることを知らなかった」
「そんな……私、使いの者を行かせたのに」

 おそらくその時、僕は彼を探しに出ていていなかったのだろう。

「それより、いつも元気な君がどうしたんだい? もし……僕のせいなら……その」

 うっかり話を始めてしまった。ジョシュアのことは気になるが、まずは診察をしなければ。 
 僕は彼女の細い手首を取って脈を取り、聴診器を当てた。彼女は少し恥ずかしそうにしているが、もちろん寝間着の上からだ。

「うん、大丈夫だ」
「ありがとう。イーサン。あの、倒れた原因はね。笑わないでね」
「ああ? 何、心当たりあるの?」
「あれよ、あれ」

 そう言って指をさす先には、美しいラインを描くコルセットが置かれていた。
 彼女の部屋に来た時、彼女はまだよそいきの、僕の診療所に来たのと同じ服を着ていた。しっかりとコルセットもしていたのだろう。
 倒れた彼女をベッドに横たわらせた後、お手伝いさんたちが寄ってたかってマリアを着替えさせたので、僕が診察をしたときにはマリアはコルセットからは解放されていた。

「あれからずっとつけてたから、苦しかったのね。全く、あんなもの、誰が考えたのかしら」

 不貞腐れたようにマリアは言う。確かにあんなに腹部や腰を締め付けるのは体にも良くないだろう。

「そうだね。ほどほどにした方がいいかもしれないね」

 僕はそう言って少し笑った。

「ところで……申し訳ないんだけど、話を聞かせてくれないか。君はどうして、ジョシュアを呼んだんだい」

 イチゴを美味しそうに食べるマリア。もうすっかり具合は良さそうだ。そうと分かれば、僕はジョシュアのことが気になった。

「ああ、もちろんよ。貴方のところから馬車で帰って、それから……」

 マリアが話すことを僕は黙って聞いていた。僕は……なんて愚かだったのだろう。


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