【完結】寒風の吹く夜僕は美少年を拾った~砂糖菓子のように甘く切ない恋の物語~

紫紺

文字の大きさ
61 / 70
第10章 思わぬ展開

(5)

しおりを挟む


 僕はその日、いつもより早く起きて朝食のスコーンを焼いていた。ジョシュアはいつものように朝は苦手だ。ホワイト氏の屋敷に行くのは昼前なので、それでも十分に間に合うのだが。
 新聞配達の少年が庭に新聞を投げる音が聞こえたが、特段気にすることもなく朝の支度をしていた。

 記者たちが押し掛けた翌日もその翌々日もジョシュアのことは大した記事になっていなかった。写真も小さなもので、詩の賞を田舎町の少年が獲ったという、数行のものだ。
 大騒ぎした自分が可笑しく思えたものだ。だが、安堵したほうが大きかった。

「どうしたんだ。ジュリー」
「先生、見てください。この記事を」

 新聞を手にジュリーは青い顔をしている。まだジョシュアのことが書かれているのかと、僕は不安に襲われながら新聞を受け取った。
 僕が読んでいるのはロンドンの大衆紙だ。恐らくロンドン周辺では、最も購読者を持っているだろう。この街でも半分くらいの住民が取っているはずだ。
 政情、スポーツ、ゴシップ、偏りの少ない娯楽紙といって間違いない。

 その記事は、ゴシップが良く載っている、だが多分一番読者がいる、四枚目の端にあった。

「これは……」

 そこには立ち上がった僕の手を握るジョシュアの写真が掲載されており、見出しには恐ろしい文面が踊っていた。

 ――――新人詩人はソドムの住人か?

 ソドム。それは聖書において、背信の罪で焼かれた国の名前だが、『背信の罪』から、同性愛者のことを指していた。

「こんな、一瞬の場面を切り取るなんて!」
「先生、どうされますか? 名誉棄損で訴えますか?」

 ――――名誉棄損……いや、それは駄目だ。

 僕は腸が煮えくり返るほどの怒りを覚えたが、これには何の根拠もないことを思いだし、大きく深呼吸をした。

「いや、こんなゴシップ記事。大げさにすることもないでしょう。放っておけばいい。出版社の人も宣伝代わりに使ってるんだ。話題が多い方が売れるから。全く、なんて奴らだ!」

 僕は新聞を診察室の机にたたきつけた。何故僕らを放っておいてくれないんだ。やはり、投稿なんてしなければ良かった。僕の責任だ。
 僕が頭を抱えていると、扉が開く音がした。恐らく家と診療所を繋ぐ扉だろう。ジョシュアが僕たちの声を聞きつけてやってきた。

「どうしたの。朝から大声出して」
「ジョシュア、大変なのよ」

 ジュリーが彼に駆け寄っていく。ジョシュアはジュリーの肩越しに僕の顔を覗き見た。

「大丈夫だよ、ジョシュア。気にすることはない。こんな記事、ただの中傷に過ぎない」

 記事には、ジョシュアの詩は素晴らしいが、後見人である若者への愛を書いたものではないかとしていた。
 憶測に過ぎないこんな記事をよくもまあ。ジョシュアはジュリーに渡された新聞に目をやった。

「写真、俺ってわかんないね。大きくもないし、ぼやけてるや」

 元々ペンネームを使っているので、彼のことはJ.G.だし、僕の名前は当然のことながら出ていない。そうだ。落ち着いて考えてみれば、恐れることはない。

「そうだな。確かに大声で喚くことでもないな」
「じゃあ、俺行ってくるよ」

 いつもより少しだけ元気のないジョシュアだったが、僕に手を振って出ていった。その日の診察もいつも通り。新聞の記事に何かを言う患者もいなかった。
 だが、翌日になって事態は急変した。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

藤吉めぐみ
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

処理中です...