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第10章 思わぬ展開
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しおりを挟む電報が届いた翌日、僕の診療所には見知らぬ人々が詰めかけ、ごった返した。
今やロンドンから汽車で数分の街だ。駅から歩ける距離にあるここに、都会の衣装に身を包み、大きな写真機を持った連中が庭の花々を踏みつけた。
「待ってください。取材は順番でお願いします。それと、写真はお断りしています」
「どうしてですか。おめでたいことなんだから、1枚お願いしますよ!」
詰めかけたのはロンドンの新聞記者や雑誌記者だった。お目当てはもちろんジョシュア。彼が詩のコンテストで大賞を受賞したのがその理由だ。
だが、もちろん僕たちはそんなところに応募した覚えはない。昨日届いた電報を読み、二人で首を傾げていたのが、今朝になってこの騒ぎだ。
どうやら契約を断った出版社が、僕らが他社にも詩を投稿したのを知って取り込みを図ったようだ。彼らは従来あった新人コンテストに、応募もしていないジョシュアの作品を受賞させたのだ。
乱暴極まりないことだが、既成事実を作ってしまえばこちらのものだとでも言うように、新聞各社を引き連れてやってきた。
「困ります。こんなこと、僕もジョシュアも望んでいない」
ロンドンの文芸誌としては草分け的な出版社だ。まさかこんな手を使うとは思わなかった。
「まあまあ、それはこちらの手違いでした。でも、ジョシュア氏の作品が素晴らしいのは間違いないです。是非、この賞を受け取ってください。賞金もあるんですよ?」
「賞金とか……お金には困ってない」
僕はそう言って机をたたかんばかりの怒りで受け応えた。ジョシュアも僕の隣で青い顔をして黙り込んでいる。そのうち、強いフラッシュが僕らに向けて焚かれた。
「君! 写真は困ると言ってるだろう。出ていけ!」
僕が立ち上がって叫ぶのをジョシュアが驚いて手を握ってきた。
「イーサン……」
「ああ、ジョシュア、大丈夫だ。写真は載させないから」
僕は呼吸を整えて椅子に座りなおす。だが、彼らには僕らの意見など聞く耳を持たなかった。しかも、その記事は呆れるほど悪意に満ちていたのだ。
ようやく記者の連中を追い払い、出版社と再度話し合うことを条件に帰ってもらったのは夕刻近かった。お陰でこの日は診療所を開けることができず、休診となってしまった。
「先生、酷い目に会いましたね」
夕刻、様子を見にやってきたジュリーに僕はため息とともに愚痴を言った。
「本当だよ。まさかこんなことになるとは思わなかった。大人しく契約に応じたほうが良かったのかな」
「どうでしょうねえ。私は本のことはよくわからないですけれど……ジョシュアはああ見えて人前に出るのを嫌がるようだから」
全くジュリーの言う通りだ。表に出たくない彼の気持ちが理解されないのが腹立たしい。詩を読むだけでは足りないのか?
「あれだけ綺麗な子だから、1度写真が出てしまうと大変なことになるかも。私が愛読している婦人誌でも、若い俳優や小説家は人気なんですよ」
「そうですか……」
ジュリーには言えないが、ジョシュアには男娼をやっていた過去がある。彼の写真を見て、何か風評を立てられることも僕は恐れていた。それはジョシュアが最も怖がっていることでもある。
「でも先生。ジョシュアの詩は素敵ですね。私も恋をしていた時のことを思い出しましたよ」
「ああ、ありがとう。僕もそう思うよ」
ジョシュアの愛の詩。その詩を読んだ人は、きっと同じような感想を持つだろう。切なく淡い心を美しい言葉で紡いでいる。
まさかそれが、僕に対する想いだと、気が付くことはないだろうけれど……それとも、ジュリーは気が付いたのだろう。
3日後、いつも僕より先に新聞を読むジュリーが血相を変えて飛び込んできた。
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