【完結】寒風の吹く夜僕は美少年を拾った~砂糖菓子のように甘く切ない恋の物語~

紫紺

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第10章 思わぬ展開

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 ロンドンという巨大都市のすぐ南西に位置しながら、テニスコート以外は何もない田舎町のウィンブルドン。
 僕とジョシュアの噂は、彼らが飽きてしまったのか、最近ではあまり聞かれなくなった。ジョシュアが曲りなりにも大地主であるホワイト氏の厨房で働くようになったことも要因の一つかもしれない。
 そして何より、間近に迫ったテニス大会に関心が移っていた。

「先生、今年も救護係されるんですか?」

 診察室に訪れる常連の患者たちの話題も専らそのあたりだ。つい先日までは倒れたジョシュアのことや僕の結婚話ばかりしていたのに現金なものだ。

「いや、今年は駅もできたでしょ。相当人が増えると見込んでるみたいで、ロンドンから医師や看護師が派遣されるらしいんだ。僕はそっちの方が観戦できてうれしいけどね。駅前の店も一斉にオープンしたし、賑わうだろうねえ」
「はあ、まあ賑わうのもいいけど、変なのも一緒にやってきそうで物騒じゃないですかね」

 ウィンブルドンには大した産業はない。農業や住人相手の商売(僕も含めてだが)、そのほかはロンドンまで仕事に出ている者で占められている。
 よそ者が一挙に押し寄せるのは嫌なのだろう。テニス大会も最初は誰も知らない地味なものだったのが、年々大きくなって、住民が戸惑うのも理解はできる。

「今年は誰が優勝するかねえ。やっぱりジェラードかなあ」
「ダブルスではファーディナンド兄弟が有力って話だよ」

 それでももちろん楽しみにしている者が大半だ。雑誌や新聞でも随分と取り上げられるようになった。つまりは大会が行われる1週間。ウィンブルドンはお祭りなのだ。

「マリアの屋敷に選手の数名が宿泊するらしいんだ」

 仕事から帰ってきたジョシュアがそう言った。これは毎年の決まり事のようなものだ。街で最も大きな屋敷であるホワイト氏の家は、何人かの有名選手が宿代わりに使う。これはまあ、ホワイト氏の道楽だ。

「すごいなあ。サインをもらおうかな」

 ジョシュアの作るお菓子や料理は一家の評判がよく、マリアもたまに厨房にやってきてジョシュアに声をかける。必然的に一目置かれる存在になっていた。

「僕のももらっておいて。今年は出番なさそうだし」

 そんな会話をしている時だった。玄関に郵便局員がやってきた。

「グリフィス先生、電報ですよ」
「電報? なんだろう。姉からかな」

 それは僕が予想もしない電報だった。ウィンブルドンテニス大会まであと2週間。祭りは近づいていた。



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