58 / 70
第10章 思わぬ展開
(2)
しおりを挟む「けいやく?」
だが、僕の不安は杞憂に終わった。
「ああ、君が詩を書いて、それをこの出版社が発表する権利を得るんだ。雑誌に掲載されたり、詩集として本になれば利益が出版社から君に入るんだよ」
「ふううん。でも、俺そんなに書けないからいいや。それに、あんまり表に出たくない」
もし、彼がポートレートなど撮って雑誌に載りでもしたら……。文壇は大騒ぎになるだろう。これだけの美少年だ。俳優なんかよりも人気が出そうだし、色々なところが放っておかないだろう。
――――だが、それはいくつもの危険がはらんでいる。
記者の誰かが、僕らの関係に気が付いたら? それよりもロンドンのマクミラン一味が彼の存在を知ったら? スキャンダルが大好きな英国ジャーナリズムの餌食になりかねない。
「興味ないって送っておいてよ」
「いいのか? せっかくのチャンスだよ?」
僕らはワインを開け、乾杯をした。ジョシュアは嬉しそうに何度も雑誌のその個所を眺め見た。けれど、雑誌社との契約。つまり、プロの詩人になることは拒んだ。
「本気で言ってるの? 俺は厨房でお菓子を作ってるほうがいいや。詩の方はイーサンに読んでもらえればその方が嬉しい。でもまあこれからも色んな雑誌に投稿してみようかな。こうして活字になるのは感動的だよ」
テーブルに乗ったディナー、ほとんど彼が作ったのだけれど、それにナイフを入れながら、ジョシュアは言う。僕は残念に思いながら、やはり安堵した。
恐らく出版社はジョシュアが他のところと契約をするのが怖いのだ。だから、彼にプロの意志がなく、これからも投稿するようであれば、それ以上何も言ってこないだろうと僕は考えていた。
「わかった。じゃあ僕が返事を書いておくよ。君の代行として」
「ああ、イーサンは俺の後見人だもんね。そこのところよろしく」
僕は首肯しながら、そうだったと思う。後見人として、断らないと。雑誌社に送ったのは僕だけど、作者は違うのだ。J.G.はジョシュアのことだ。
――――そこはきちんと分けておかないといけないな。
「ねえ、まだ食べてるの?」
いつの間に横に立っているのか、ジョシュアが僕の腕を取る。
「ああ、もうお腹いっぱいだ」
「じゃあ、居間にいこうよ。それとももうベッドにする?」
「ええ? ベッドはまだ早いだろう。居間で少し横にならせてくれ」
珍しく飲んだワインでいい気分になっているのか、ジョシュアは少し頬を染めて僕を誘う。
「いいよ、それで。ご褒美のキスをして」
「ご褒美? いや、褒美というより、称賛のキスだ。君は本当に凄いんだよ」
ジョシュアは口角をいっぱいに上げて微笑むと僕にキスをする。僕はそのまま立ち上がると彼を抱き上げ居間へと運ぶ。
「好きだよ、イーサン」
絨毯の上の恋人はいつも幸せだ。僕は彼を抱きしめる。彼の吐く息が僕の耳朶にかかる。僕はもう止まらない。どこまでも彼の中へ溺れていった。
それから、僕は例の出版社に契約の意志がないことを伝え、ジョシュアが書き溜めていた詩からいくつかを二人で選んで、複数の文芸雑誌に送った。
いずれも読者投稿を募集しているところだ。お金には一切ならないけれど、ジョシュアの作品が人の目に触れることは喜ばしい。
もちろん掲載されればの話だが、彼の作品には下手に誰かの手が入ってないことから斬新さと思い切りの良さがあり、独特の耽美な雰囲気を持っている。素人の個人的意見だが、珍しがって掲載してくれるのではと勝手に思っていた。
だが、事態は僕が想像していたことと全く違う結果をもたらした。
1
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
ヒートより厄介な恋をα後輩に教え込まれる
雪兎
BL
大学三年のΩ・篠宮湊は、何事も理屈で考えるタイプ。
ヒート管理も完璧で、恋愛とは距離を置いてきた。
「フェロモンに振り回されるのは非合理的」
そう思っていたのに――。
新学期、同じゼミに入ってきた後輩は、やたら距離の近いα・高瀬蒼。
人懐っこくて優秀、なのに湊にだけ妙に構ってくる。
「先輩って、恋したことないでしょ」
「……必要ないからな」
「じゃあ俺が教えますよ。ヒートより面倒なやつ」
余裕のあるα後輩と、恋に不慣れなΩ先輩。
からかわれているはずなのに、気づけば湊の心は少しずつ乱されていく。
これは、理屈ではどうにもならない
“ヒートより厄介な恋”を教え込まれる物語。
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる