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第10章 思わぬ展開
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しおりを挟むウィンブルドンテニス大会が近づき、新しい駅も開業した。繁栄を期待する沸き立つ笑顔が田舎町に溢れる頃、僕のところに一つの小包が届いた。
ジョシュアも順調に回復し、以前のようにホワイト邸厨房での仕事も再開した5月末。いつもの郵便局員から受け取ったそれは、大きめの封筒に包まれた1冊の雑誌だった。
「ジョシュア! ジョシュア、来てごらん!」
「なに? もう行かないといけないんだけど」
「いいから、すぐ済むから」
長袖シャツのボタンを留めながら、ジョシュアは僕の座る食堂の椅子のところにやってきた。僕の手は若干震え気味だ。興奮を抑えられない。
「ほら、君の詩だよ。君の詩が載ってるんだ」
「え……どういうこと」
それは文芸雑誌だった。読者の詩や小説を掲載することもある、特に教養あるご婦人方に人気の雑誌だった。そこに、以前僕が勝手に投稿したジョシュアの詩が掲載され、出版社がわざわざ送ってくれたのだ。
「本当だ……イーサン、僕の詩を送ったの?」
「ああ、君は嫌がってたけど、内緒でね。ダメだったかな」
「ううん、そんなことはない。嬉しいよ。僕の詩が雑誌に載るなんて、夢みたいだ」
ジョシュアは自分の詩が載っている個所を指で何度もなぞりながら、食い入るように見つめていた。
「でもこれ、名前が違うね。J.G.て、なってる」
「ああ、それは。投稿した時はまだ、後見人になってなかったし、ペンネームを作ったんだ。これはこれから変更してもいいんだよ。因みにJはジョシュアのJで、GはグリフィスのGだ」
いい出来だと思ったが、まさか掲載されるとは思っていなかった。しかも読者投稿というより、新人詩人としての扱いに近い。深く考えずつけたペンネームだったが、ジョシュアは驚いた顔をして僕に抱き着いた。
「おいおい、どうした? いや、嬉しいのはよくわかる。僕も誇らしいよ」
「それは、もちろん本に載ったのは嬉しいけど、それより、俺のペンネームが嬉しすぎるんだよ」
「え?」
「だって、俺はこの詩をイーサンのために書いたんだ。イーサンのことを思って……」
それはわかっていた。だからこそ、僕はこの詩を誰か他の人にも読んで欲しかったんだ。君が紡ぐ切なくも美しく愛の詩を。
「その俺の名前に、イーサンのファミリーネームが付いてるんだよ。こんな幸せがあっていいのかって」
感極まったジョシュアが僕の耳元で泣いている。僕は彼の頭を撫でる。愛おしく、僕の命である君。彼はそっと体を離し、僕の顔をマジマジと見る。眼鏡を取り、テーブルに置くと、キスをしてきた。
甘いキス。君の唇には華が咲いているように柔らかく香り豊か。僕の顎を両手で包み込むようにして、君は僕とのキスを十分に味わう。
「もう、行かなきゃ」
「あ、ああ。帰ったらお祝いしよう。ワインを買っておくよ」
「了解! 行ってきます」
僕は椅子から立ち上がり、診察室へ向かう。もちろん足取りは軽い。ジョシュアが帰ってきたら、改めて彼を驚かすこともある。
同封されていた手紙には、編集長からの彼の詩に対する絶賛と是非うちと契約して欲しい旨が書かれていたのだ。
英国の流行詩人や小説家は、彼らのポートレートとともにご婦人方の憧れの的だった。どういうわけか、女性的な雰囲気のハンサムが多く(たぶんに写真の加工のためと思われるが)、人気があった。
そのため、本当か嘘かわからないが、文学界の連中には同性愛者が多いなどという定説がささやかれているのも事実だ。男女を問わず、貴族がパトロンについていることも原因の一つだろう。
ジョシュアが文学の世界で認められようとしているのは素直に嬉しく誇らしい。けれど手放しでは喜べない、一抹の不安はあった。
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