毒を食らわば皿までと【完結】

紫紺

文字の大きさ
16 / 68
第2章 容疑者

容疑者 7



「で? さっきの質問に答えてよ」
「あ? ああ、高校生の頃にはもう、ギターを買ってもらってたな」

 華山の家庭については既に調べがついてる。ごく普通のサラリーマン家庭、両親と姉が一人、北陸地方に住んでいる。華山は高校卒業と同時にここに来たのだ。

「大学は卒業したのか」
「おいおい、これは尋問か?」
「え? ただの興味だけど。大学には行ってたんだろ? それでこっちに出て来たんだと思ったから。ここが地元じゃなさそうだし」

 華山は実は、この地方で唯一の旧国立一期校に入学している。2年生の時に本格的にバンド活動を始め、3年前に結成した捲土重来で、インディーズデビューを果たした。

「ま、普通に中退したよ。知ってるかな。バンドってさ、アマチュアでもツアーに出るんだよ。いろんな場所のライブハウスに出演するんだ。捲土重来の前のバンドでもインディーズデビューしてたから、あちこちから誘いはあった」

 音楽の話をする華山は、今までの印象からかなり変わって感じた。まるで、今でも夢見る少年のような表情をする。穗隆は思わず見惚れてしまった。

「捲土重来はメジャーデビューの話、あるのか?」

 純粋に穗隆は気になって聞いてみた。今回の事件で、早々に解散してしまったバンドもいる。
 メジャーデビューが目の前だったバンドも、今は落ち着くまでと流れをストップさせられていたのだ。夢を掴みかけていたのなら、気の毒な気持ちにもなる。

「ああ、二社から誘いはあってな。どうしようか、みんなで考えていたところだ。俺は、二社ともあまりいい印象はないんだけど」

 華山はトーストを口に運ぶ。パリッとしたパンの乾いた音が、小気味よく聞こえた。横並びに座っているので、穗隆は彼の横顔を眺めるわけだが。
 口に吸い込まれていくトーストが、どこか卑猥に思えて目が釘付けになってしまった。

「皇樹さん、真剣に見てるけど。あんたのパン、そこにあるよ」

 その視線を感じたのか、華山に言われてしまう始末だ。穗隆は慌てて自分のパンを口に放りこんだ。

「俺さ。死んだ奴にこんなこと言うのは良くないかもしれないけど。あんなところであんな風に殺されて。腹が立ってるんだよ」

 華山が事件のことを自ら口にした。穗隆は咀嚼していたパンを思わず飲み込む。

「どういうことだ?」
「あのライブハウスには、俺達の他にも腕に覚えのあるバンドがいくつも出演していて、いつもお客さんで賑わってたんだ。オーナーもすごくいい人だった。あそこからメジャーデビューしたバンドもあるんだ」

 それは穗隆も知っていた。もちろん、今回事件になって初めて知ったのだが。あの有名なバンドもここ出身だったのか、と驚いたものだ。ステージに向かう廊下には、そういったバンドの誇らしげな写真が飾られていた。

「なのに、今はあそこで演奏できない。この街では、あそこが一番有名なライブハウスだったのに」

 彼らは今、数駅先にあるライブハウスで演奏しているが、元々そこを常連としていたバンドもいる。出演回数は激変したと続けた。

「秋がきても再開できなかったら、東京進出も考えてるよ。ツアーも再開するしな」

 そうか。と穗隆は思う。秋までにこの事件の決着を見なくては、奴らは三々五々散っていく可能性があるというわけだ。

「あいつは何故ライブハウスで、あんな死に方しなくちゃいけなかったのかな」

 それをおまえがやったのだと、自分たちは考えている。真嶋さんは最もこの説に熱心だ。
 だがそんな言い方をするとは、おまえはやっていないのか? 穗隆は彼の表情に戸惑う。嘘を言ってるようには見えない。

 ――――いや、これは奴の芝居かもしれない。僕の意識を操作しているんだ。

「だらしない男だったんだろ。それは君も同類か。相手が男と女の違いはあっても」

 穗隆の言葉が終わるのを待たず、華山はじろりと睨んだ。少し厚い唇の回りと顎に、剃り残しの髭が見える。それが却って野性的に感じられた。



感想 3

あなたにおすすめの小説

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

天然で優しいお母さんは最強かもしれない

三園 七詩
ミステリー
俺はある事を除けばただの高校生。 ごく普通の家庭に生まれた。 少し天然だけど優しい母さんと出張の多い父さんの間に生まれた。 一つ変わったことがあるとすれば幽霊が見えることだ。 怖い話も交えた日常ファンタジー風。 ホラーかミステリーか微妙なので一応ミステリーにしてあります。

豊臣の子

四谷軒
ミステリー
慶長19年(1614年)、方広寺鍾銘事件が起こり、豊臣家は刻一刻と、大坂の陣――亡(ほろ)びの道を歩んでいた。 豊臣完子(とよとみさだこ)は豊臣秀勝(秀吉の姉・ともの子。豊臣秀次の弟)と江(ごう)(秀頼の母・茶々の妹)の子であり、茶々の養女である。 完子(さだこ)は、夫の・九条忠栄(くじょうただひで)と共に、豊臣家を守ろうとしていたが、その折り、秀頼が乱行に興じていることを知る。 秀頼の乱行を止めるため、完子と忠栄はその乱行に興じる理由を探る。探っていくうちに、十年前の慶長4年(1604年)に、完子の九条家の嫁入りの前夜に起こった、完子の乳母の怪死事件に遠因があることに気づく。 乳母は、完子の嫁入りの宴に出席したあと、大坂城内の一室で怪死しており、その死体を発見したのが秀頼であった。 秀頼は乳母のことを好いており、十年後の慶長14年(1614年)、その怪死の謎を解く。解いた結果、秀頼は豊臣家の「秘密」――秀頼自身の出生の「秘密」に気づく。その「秘密」は秀頼を狂わせ、秀頼を乱行へと誘(いざな)っていく。 方広寺鍾銘事件の原因となった鍾銘も、狂った秀頼によって「いじられた」ものであり、こうして豊臣家は滅亡への道を突き進み、忠栄や完子の努力も虚しく、大坂の陣へと突入してしまう……。 【表紙画像】不明Unknown author, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

再生ホテルー館花琴音の事件簿ー

天咲琴乃 あまさき ことの
ミステリー
かつて聖堂や学び舎だった建物を再生した、 山あいの小さなホテル。 そこには、何かを終えた人間だけが辿り着くという。 元配信者で、現在は歯科衛生士として働く 館花琴音(たちばな ことね)は、 自分自身の心の整理のため、 そのホテルに滞在することになる。 静かな夜、ホテルでは 奇妙な「音」が聞こえ始める。 子どもの名前を呼ぶ声、誰かに似た話し方、 あるはずのない沈黙、拒絶された言葉―― それらはすべて、宿泊者自身が向き合うことを避けてきた過去だった。 琴音は探偵でも、裁く者でもない。 ただ、声と沈黙に関わってきた人間として、 彼らが“自分の音を聞く”のを邪魔しない。 再生とは、 許されることでも、元に戻ることでもない。 壊れたことがあっても生きていけると知ること。 全五話で描く、静かな心理ミステリー。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】学園ギャンブル

暗闇坂九死郞
ミステリー
頼まれると断れない性格の女子高生・吉高菜々子は、自称ギャンブラーを名乗る謎の男子高生・花屋友成と出会う。花屋の勝負強さに目を付けた吉高は、将棋部の体験入部で行われていると噂されているギャンブル対決に身を投じることになり……!? 【登場人物】 花屋友成………マッシュルームカットに眼鏡の謎の自称ギャンブラー。優れた頭脳と洞察力で相手のイカサマを見抜く。 吉高菜々子……お人好しのクラス委員長。花屋との出会いからギャンブラーたちの世界を覗くことになる。 躑躅森遥………『賭博生徒会』会計。 馬酔木白夜……『賭博生徒会』書記。

俺以外を見るのは許さないから

朝飛
BL
赤池凌平は、成瀬真介と出会い、緩やかに親交を深めてやがて恋人同士になるのだったが、時折違和感を抱いていた。  その違和感の正体が明らかになる時には、もう何もかも手遅れになってしまい……。 (女性と付き合うシーンもあります。) ※ネオページ、エブリスタにも同時掲載中。マイペースに更新します。