毒を食らわば皿までと【完結】

紫紺

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第2章 容疑者

容疑者 9



 穗隆はそのまま署に戻ることになった。華山と別れてすぐ、田畑に電話を入れると真嶋が呼んでいるとの言伝だ。やはり華山と二人きりで会うのはまずかったかと、穗隆はややびくつきながら所轄へと戻った。

「よお、皇子様。なにか収穫あったようだな? さすがキャリア」

 最初に声をかけてきたのは、ベテラン刑事の風間だった。嫌味を言うタイプではないので穗隆は少し驚いた。

「風間さん、まあそのくらいにしてやってください。で? ヤツとお友達になったか?」

 真嶋が面白がって聞いてきた。だが、目は笑っていない。

「すみません。奴から誘ってきたのでチャンスかと思って。メルアドの交換だけはしました」
「そうだ。これはチャンスだ」

 真顔に変えた真嶋は、立ったままの穗隆に座るよう手招きする。フロアの中にある会議机、真嶋と風間が並ぶ真ん前に穗隆は座った。

「あいつはなかなかガードが堅いと思う。内側から攻めるのもありだ」
「はい……ただ……」
「ただ?」
「話していて何となく……本当に犯人なのかと思えて」
「馬鹿か! おまえ!」

 怒鳴ったのは風間だ。ミイラ取りがミイラっておまえのことだな。と続け、鼻息荒く腕組をした。真嶋はそれをまあまあと諫める。

「あいつから誘ってきたってことは、やはり何らかの意図があると見ていい。いいだろう、おまえはそれに乗れ。犯人じゃないと思ってもいい。安心させるのが一番だ」
「真嶋さんは、華山が犯人だと確信してますか?」
「そうだな…………正直わからない。決め手もないしな。でも、今はここしか当たるところがないのは事実だ」

 真嶋は所謂『刑事の勘』を常備しない男だった。今までいくつかの事件を一緒に追ってきたが、そういう根拠のない発言を好まないタイプだ。
 物事を感情的に考えず、理詰めに進める。だから真嶋のこういう発言は予想できた。しかし、それに続く言葉に穗隆は驚かされる。

「犯人かどうかはわからないが、これは確信しているぞ。あいつはゲイだ」
「え?!」

 それは穗隆だけでなく、風間も同時に発した声だ。華山の名前が捜査本部に上がった時とは真逆の発想だ。いつ方向転換したのか不明だが、真嶋は自信ありげに続けた。

「女と付き合ってるのはカモフラージュに過ぎない」
「それは真嶋さん、大胆すぎやしませんか?」

 風間の問いに真嶋は答えず、穗隆に視線を向けた。

「華山から来るメールは、全部オレと捜査本部に転送しろ。もし会うことになったら、尾行するからそのつもりで」
「はい、わかりました」
「ん? て、言うことは、皇子様は奴に狙われったてことか? ホントにミイラになるなよぉー」

 風間は柄にもなくはしゃぎ、穗隆の肩を何度もたたいた。

「痛いっすよ、風間さん。嫌だなあ、もう。僕はそっち系じゃないですよ。なんか寒気してきましたよ」

 風間の攻撃を躱しながら、穗隆はちらりと自分の上官を見る。真嶋は片側の口角を微妙に上げるだけだ。だがその双眸は、穗隆の内側を見抜くかのように鋭かった。

 ――――真嶋さんが断言する根拠はなんだろう。何故華山をゲイだと? 真嶋さんは『勘』で物を言わない人だ。でももし、本当にそうなら……。

 真嶋の発言には、穗隆も思い当たるふしがないわけでもない。不意打ちのように、自分のテリトリーに侵入する鮮やかさもそうだ。
 それに、奴は一度も自分はゲイじゃないと否定していなかった。
 


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