毒を食らわば皿までと【完結】

紫紺

文字の大きさ
21 / 68
第3章 裏切り

裏切り 3



 ――――奴はあの時の男じゃないのに。僕は願いを叶えたかのように、嬉しいと思っている。いや、違うのか。僕は華山とこうしたかったのか?

 1メートルも離れていないところに華山がいた。モノトーンの花柄Tシャツ、ダメージデニムがいかにもな感じ。自分と同じよう、胡坐をかいてビールを飲んでいる。

「皇樹さん。あんたら塁のこと、どのくらい知ってるんだ」

 話しておきたいことがある。そう言って呼びだしたのは華山だ。穗隆は顔を上げた。

「君こそ、何か僕に話したいことがあるんだろう? 塁君のことなのか?」

 もしかして、華山は塁から養父のことを聞いていたのだろうか? だが、それをわざわざ、自分を呼び出してまで話すだろうか。穗隆は訝し気に華山を見た。

「あんたらの言う通り、塁は俺に惚れてた」
「華山、おまえ……」

 あれほど否定していたことを、こうもあっさり認めてきた。いったいどういうつもりだ。穗隆はビールを飲んだことを後悔した。
 まさかと思うが、罪を告白するつもりではないだろうな。穗隆は携帯に手を伸ばす。

「やめろ。俺は塁を殺してはいない。自白するとかじゃないから」
「だったら……」

 穗隆はそれでも、デニムのポケットから携帯を抜き取ると、クッションの横に置いた。録音ボタンはまだ押されていない。

「まあいい。好きにするさ。録音したければすればいい……」
「おまえはどうだったんだ。倉敷君のこと、好きだったのか? 自分は何とも思っていないという話だったが」

 穗隆は真嶋が言っていたことを思いだす。『華山はゲイだ』。真嶋は断言した。

「あんたはどうなんだ?」
「え?」

 予期せぬ言葉が華山の口から放たれた。

「なにを言って……!」

 突然、華山の体が動いた。穗隆の視界が一瞬真っ暗になり、驚く間もなくあおむけに倒された。

「おまえ、何してる! 暴行罪で逮捕されたいか!」

 両腕の手首を取られ、穗隆は万歳する恰好だ。一回り大きな体ごと預けられ、簡単には動けない。穂隆はせめて目力だけでもと、華山を睨みつけるが、相手は余裕の表情だ。

「あんた、俺のことずっと見てたな。最初に出会った時からわかってた」
「馬鹿なこと……」
「馬鹿なことか? どうかな、それは。でも俺は知ってる。あんたは俺に惚れてる。その目は塁の目と同じだ。俺が欲しくてたまらない。そんな目だ」
「よせ、下らない……こと……」

 そこまで言って、穗隆は黙ってしまう。自分の目の前に、華山の精悍な顔がある。太い眉と切れ長の双眸、高い鼻と少し厚めの唇。彫の深い、男らしいなかに色気があった。

「下らないか。俺は、そう思わない……」

 華山の手が、いつのまにか手首からゆっくりと外され、穗隆の顎に触れていく。少しアルコールの匂いのする息がかかる。
 穗隆の唇を、華山のそれが覆った。くっと閉じられた穗隆の唇を、華山は親指と舌でこじ開けようとする。

「う……」

 息が止まる。顔を二、三度横に振るが、華山の右手はそれを許さない。顎をしっかりと支え、なおも舌をねじ込んできた。

「あ……うう」

 穗隆は息をするのと同時に、華山の舌に自分の舌を絡ませる。生き物のように蠢く舌に、体中の血流が沸騰し熱い息を吐かせた。
 いつしか両腕を彼の背中に回し、自らに引き寄せるよう、穗隆は力を込めた。

「もう降参か。思っていた通りだな」
「黙れ……あ……」

 首筋に這っていく唇と舌を感じながら、穗隆は自分でも驚くような声を出した。
 喘ぎ声をあげながら穗隆は確信する。自分が求めていた全てのもの。それを今、ついに手に入れたと。



感想 3

あなたにおすすめの小説

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

天然で優しいお母さんは最強かもしれない

三園 七詩
ミステリー
俺はある事を除けばただの高校生。 ごく普通の家庭に生まれた。 少し天然だけど優しい母さんと出張の多い父さんの間に生まれた。 一つ変わったことがあるとすれば幽霊が見えることだ。 怖い話も交えた日常ファンタジー風。 ホラーかミステリーか微妙なので一応ミステリーにしてあります。

豊臣の子

四谷軒
ミステリー
慶長19年(1614年)、方広寺鍾銘事件が起こり、豊臣家は刻一刻と、大坂の陣――亡(ほろ)びの道を歩んでいた。 豊臣完子(とよとみさだこ)は豊臣秀勝(秀吉の姉・ともの子。豊臣秀次の弟)と江(ごう)(秀頼の母・茶々の妹)の子であり、茶々の養女である。 完子(さだこ)は、夫の・九条忠栄(くじょうただひで)と共に、豊臣家を守ろうとしていたが、その折り、秀頼が乱行に興じていることを知る。 秀頼の乱行を止めるため、完子と忠栄はその乱行に興じる理由を探る。探っていくうちに、十年前の慶長4年(1604年)に、完子の九条家の嫁入りの前夜に起こった、完子の乳母の怪死事件に遠因があることに気づく。 乳母は、完子の嫁入りの宴に出席したあと、大坂城内の一室で怪死しており、その死体を発見したのが秀頼であった。 秀頼は乳母のことを好いており、十年後の慶長14年(1614年)、その怪死の謎を解く。解いた結果、秀頼は豊臣家の「秘密」――秀頼自身の出生の「秘密」に気づく。その「秘密」は秀頼を狂わせ、秀頼を乱行へと誘(いざな)っていく。 方広寺鍾銘事件の原因となった鍾銘も、狂った秀頼によって「いじられた」ものであり、こうして豊臣家は滅亡への道を突き進み、忠栄や完子の努力も虚しく、大坂の陣へと突入してしまう……。 【表紙画像】不明Unknown author, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

再生ホテルー館花琴音の事件簿ー

天咲琴乃 あまさき ことの
ミステリー
かつて聖堂や学び舎だった建物を再生した、 山あいの小さなホテル。 そこには、何かを終えた人間だけが辿り着くという。 元配信者で、現在は歯科衛生士として働く 館花琴音(たちばな ことね)は、 自分自身の心の整理のため、 そのホテルに滞在することになる。 静かな夜、ホテルでは 奇妙な「音」が聞こえ始める。 子どもの名前を呼ぶ声、誰かに似た話し方、 あるはずのない沈黙、拒絶された言葉―― それらはすべて、宿泊者自身が向き合うことを避けてきた過去だった。 琴音は探偵でも、裁く者でもない。 ただ、声と沈黙に関わってきた人間として、 彼らが“自分の音を聞く”のを邪魔しない。 再生とは、 許されることでも、元に戻ることでもない。 壊れたことがあっても生きていけると知ること。 全五話で描く、静かな心理ミステリー。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】学園ギャンブル

暗闇坂九死郞
ミステリー
頼まれると断れない性格の女子高生・吉高菜々子は、自称ギャンブラーを名乗る謎の男子高生・花屋友成と出会う。花屋の勝負強さに目を付けた吉高は、将棋部の体験入部で行われていると噂されているギャンブル対決に身を投じることになり……!? 【登場人物】 花屋友成………マッシュルームカットに眼鏡の謎の自称ギャンブラー。優れた頭脳と洞察力で相手のイカサマを見抜く。 吉高菜々子……お人好しのクラス委員長。花屋との出会いからギャンブラーたちの世界を覗くことになる。 躑躅森遥………『賭博生徒会』会計。 馬酔木白夜……『賭博生徒会』書記。

俺以外を見るのは許さないから

朝飛
BL
赤池凌平は、成瀬真介と出会い、緩やかに親交を深めてやがて恋人同士になるのだったが、時折違和感を抱いていた。  その違和感の正体が明らかになる時には、もう何もかも手遅れになってしまい……。 (女性と付き合うシーンもあります。) ※ネオページ、エブリスタにも同時掲載中。マイペースに更新します。