毒を食らわば皿までと【完結】

紫紺

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第3章 裏切り

裏切り 6



 再婚した養父は、一緒に暮らし始めてすぐ、彼に性的暴行を始めた。塁は小学校5年生だった。最初は折檻という名だったが、いつしかそれは方便だと気付く。だが、倉敷は事に及んだあと、必ずこう諭したらしい。

 ――――おまえが悪い子だから仕方なくやっている。おまえのせいなんだよ。もし母親や誰かに告げ口をしたら、おまえたち親子はここから追い出され、どこにも行くところがなくなるんだよ。

『塁は逆らえなかった。母親は、ずっと幸せそうにしているし、それを壊せなかったんです。だけどもう、限界だったんでしょうね』

 一馬は塁の家出を手伝ったという。お金も少し渡した。高校の合格祝にもらったお金を、彼に渡したのだと。

『あいつが死んだと、ニュースで見ました。葬式にも行ったけど。倉敷が普通に喪主しているのに、ホント、反吐が出ましたね』

 目も合わさず、吐き出すように言った。塁が家出してから、倉敷はまた、自分の生徒に手を出し始めた。
 退職までの間に、どのくらいの生徒が被害にあったことか。それを教育委員会は調べようともしない。残念ながら、被害者も容易には名乗り出ないため、立証するのが困難なのだ。

『僕らには大人とは違うネットワークがあるから。誰が被害にあったのか、大体わかってます。でも、本人が望まないのに公けにはできないですよね。ただ、倉敷には、何らかのバツが下ればいいとは思っています』

 一馬の話はこのようなものだった。彼自身も本当は、被害にあったんじゃないか。小林はなんとなくそう思ったが、口にはしなかった。同行した少年課刑事も、同意見だったようだ。

「まあ、これは俺の勝手な憶測だけどさ……。自分が被害に遭わなきゃ、そう言う活動できなんじゃないかな。彼も可愛い系な男性だったし。倉敷好みのさ」

 だから塁にも同情し、手を貸した。それには穂隆も異論はなかった。彼が頑なに否定するのは、ちょっと不自然ではあるが、わからなくもない。

「それで、肝心の養父の方は、なんて言ってたんですか?」
「全面否定だな。塁とは仲良くやっていたつもりだが、やはり思春期の子供は難しいって鼻で笑われたよ。塁が中学時代に何か言ってたとしても、自分に母親が取られた子供の嫉妬から出た嘘だ。全く身に覚えがない、とさ。でも、オレは嘘をついてるのは、倉敷自身だと感じた」
「なんでですか?」
「母親だよ。塁の母親。なんか危なっかしいっていうか。倉敷の話に肯定も否定もしない。息子が死んでるのにだぜ? もしかして、今は彼女がDVされてるのかもしれないな。あ、一応所轄には言っておいたぞ。気にしておきます、とは言ってもらえたけど……」

 そんなよそから来た刑事の話を、真面目に聞いてくれるわけもないだろう。小林との雑談はここで終わった。



「普段は紳士面してるのが、余計ムカつきました。被害者の友人が証言していても、しらばっくれてましたから」

 事件現場のライブハウスに意識が戻る。穗隆はハッとして、また耳を傾けた。

「でも真嶋さん、それは極端じゃないですか? 倉敷がわざわざここまで来て、塁を殺すというのも。第一彼は、塁がここにいるのを知らなかったはずだ」

 小林の言葉に続き、風間が疑問を呈した。社会的にも法的にも、制裁を受けさせたいのは皆同感だが、ことこの殺人においてはアリバイもあるし、無理がある。風間の言うことはもっともだった。

「そうなんだがな。こう、なにかチラチラするんだ。被害者の過去と今……。もちろん華山や他のバンドマン達の、可能性が無くなったわけじゃないけど。でも、動機がな……」

 真嶋はそこまで言うと、黙りこくってしまった。

 ――――やはり、華山はまだ容疑者の一人なのか。

 穗隆は誰にも気づかれないよう、そっと息を吐く。華山が犯人であって欲しくない。自分に接触してきたワケが、例え捜査内容を知るためであったとしても。殺人犯だとは考えたくない。

 ――――華山を取られたくない。ようやく手に入れたんだ。塀の向こうになんか行かせない。

 手掛かりを求め、楽屋を根気よく這いつくばる同僚たち。その背後で、穗隆はいつしか右手をぐっと握りしめていた。



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