毒を食らわば皿までと【完結】

紫紺

文字の大きさ
31 / 68
第4章 執着

執着 3



 1週間経っても、華山の行方はわからなかった。かつて付き合っていた、女性達のところにもいない。友人や親せきなど、片っ端から聴取したがわからない。
 新幹線やホテルなども当然調べたが、本名で宿泊していなければ、わかりようもない。重ねて華山は、クレジットカードを持っていなかった。

 富山には、地元警察が向かった。例の山小屋について、華山の親族に話を聞いてもらったが、そんなものは持っていないという。
 端から嘘だったのだろうか。両親や姉にも、華山からの連絡は皆無。最寄りの駅や周辺の防犯カメラに、彼の姿は見当たらなかった。

「どうする。誰にも連絡せずいなくなった。やはり逃亡したとしか思えんな。しかも、山小屋はないって話だぞ」

 真嶋は再び、穗隆を呼びつけた。穗隆はあれから、小林と共に文字通り這いつくばって華山の行方を探した。
 家族から許可をもらい、彼の部屋も捜索したが、行先を示すものはおろか、事件の関連を匂わすものですら、何ひとつ出てこなかった。

「家族もずっと行っていない、誰もたどり着けないようなところにあると……言っていました」
「今の状況では、山小屋を探すことは難しい。最寄り駅にも、実家付近にも奴の姿はなかった。だが、もうすぐ冬だ。やるなら一度きり。しかも勝算のない賭けだ」
「やらせてください。もし見つからなかったら、僕が責任を取ります。皇樹が……責任を取ります」

 穗隆の異母兄は、すでに警察庁で役職についていた。もちろん、穗隆とは無関係の立場を取っている。ただ、穗隆が故皇樹清隆の息子であることは、紛れもない事実だ。

「いいだろう。おまえも現地に行くか?」
「行かせてください。お願いします」

 その頃には、捜査本部の中で、穗隆と華山の関係が噂されるようになっていた。一緒に行動する、小林の態度もよそよそしい。誰もが穗隆に冷ややかな目を向け始め、彼にはもう退路はなかった。



 富山に来るのは初めてだった。季節は11月。北アルプスの険しい山々は、山頂から5合目辺りまで既に雪を冠していた。
 海から猫の額ほどの平地のあと、丘陵地帯を経て、誰をも拒絶するような高山が、壁のように聳え立つ。美しくもあり、怖さを湛える。どこか、華山そのものように穗隆は感じた。

「登山の経験はあるのか?」

 既にそのための装備を整えている、真嶋は同じ装いの穗隆に尋ねた。

「はい。学生時代に何度か。ただ、冬山は未経験です」
「まだ冬じゃない。行くぞ」

 富山署の警察官と、地元の山岳隊に応援を頼み、捜索を始めた。消えてから10日、全く連絡が取れないとは言え、どうしてこんなに大げさな捜索をするのか。
 華山の両親は、不審に思うばかりだ。自殺の可能性があると真嶋は説明したが、それでも首を傾げる。

「禮(れい)は自殺するような子じゃないんで。家にも来ておらんし、第一、ウチには山小屋なんてないと言っとります」

 警察は両親に、華山の回りで起こった殺人事件について話はしているが、彼を関係者としか伝えていなかった。
  両親は自分の息子に殺人容疑がかかっているのでは、という疑念を持ちながら、はっきりしない警察を信用できずにいた。

「念のためです。もし遭難していたら、大変なことになります。それと、捜索費は国費から出ますので、そこのところはご心配なさらずに」

 真嶋がそう説明しても、心穏やかではないようだった。

 ――――この人たちが、華山の両親。

 穗隆は両親や親族を見て、華山が少しも彼らと似ていないことに驚いた。いや、もしかしたら、似ているところもあったかもしれない。
 だが、穗隆は例の職人の面影を、彼らに求めていた。残念ながら、それはそこにはなかった。

 捜索隊とともに、穗隆は山に入る。誰にもたどり着けない場所。華山はそう言っていた。地図を頼りに、決められた区画をくまなく探す。樹々に印をつけ、迷わないよう気を付けながら、奥へ奥へと進んだ。
 それでも、穗隆は何故か確信していた。華山のいる場所に、決してたどり着くことはないだろうと。




感想 3

あなたにおすすめの小説

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

天然で優しいお母さんは最強かもしれない

三園 七詩
ミステリー
俺はある事を除けばただの高校生。 ごく普通の家庭に生まれた。 少し天然だけど優しい母さんと出張の多い父さんの間に生まれた。 一つ変わったことがあるとすれば幽霊が見えることだ。 怖い話も交えた日常ファンタジー風。 ホラーかミステリーか微妙なので一応ミステリーにしてあります。

豊臣の子

四谷軒
ミステリー
慶長19年(1614年)、方広寺鍾銘事件が起こり、豊臣家は刻一刻と、大坂の陣――亡(ほろ)びの道を歩んでいた。 豊臣完子(とよとみさだこ)は豊臣秀勝(秀吉の姉・ともの子。豊臣秀次の弟)と江(ごう)(秀頼の母・茶々の妹)の子であり、茶々の養女である。 完子(さだこ)は、夫の・九条忠栄(くじょうただひで)と共に、豊臣家を守ろうとしていたが、その折り、秀頼が乱行に興じていることを知る。 秀頼の乱行を止めるため、完子と忠栄はその乱行に興じる理由を探る。探っていくうちに、十年前の慶長4年(1604年)に、完子の九条家の嫁入りの前夜に起こった、完子の乳母の怪死事件に遠因があることに気づく。 乳母は、完子の嫁入りの宴に出席したあと、大坂城内の一室で怪死しており、その死体を発見したのが秀頼であった。 秀頼は乳母のことを好いており、十年後の慶長14年(1614年)、その怪死の謎を解く。解いた結果、秀頼は豊臣家の「秘密」――秀頼自身の出生の「秘密」に気づく。その「秘密」は秀頼を狂わせ、秀頼を乱行へと誘(いざな)っていく。 方広寺鍾銘事件の原因となった鍾銘も、狂った秀頼によって「いじられた」ものであり、こうして豊臣家は滅亡への道を突き進み、忠栄や完子の努力も虚しく、大坂の陣へと突入してしまう……。 【表紙画像】不明Unknown author, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

再生ホテルー館花琴音の事件簿ー

天咲琴乃 あまさき ことの
ミステリー
かつて聖堂や学び舎だった建物を再生した、 山あいの小さなホテル。 そこには、何かを終えた人間だけが辿り着くという。 元配信者で、現在は歯科衛生士として働く 館花琴音(たちばな ことね)は、 自分自身の心の整理のため、 そのホテルに滞在することになる。 静かな夜、ホテルでは 奇妙な「音」が聞こえ始める。 子どもの名前を呼ぶ声、誰かに似た話し方、 あるはずのない沈黙、拒絶された言葉―― それらはすべて、宿泊者自身が向き合うことを避けてきた過去だった。 琴音は探偵でも、裁く者でもない。 ただ、声と沈黙に関わってきた人間として、 彼らが“自分の音を聞く”のを邪魔しない。 再生とは、 許されることでも、元に戻ることでもない。 壊れたことがあっても生きていけると知ること。 全五話で描く、静かな心理ミステリー。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】学園ギャンブル

暗闇坂九死郞
ミステリー
頼まれると断れない性格の女子高生・吉高菜々子は、自称ギャンブラーを名乗る謎の男子高生・花屋友成と出会う。花屋の勝負強さに目を付けた吉高は、将棋部の体験入部で行われていると噂されているギャンブル対決に身を投じることになり……!? 【登場人物】 花屋友成………マッシュルームカットに眼鏡の謎の自称ギャンブラー。優れた頭脳と洞察力で相手のイカサマを見抜く。 吉高菜々子……お人好しのクラス委員長。花屋との出会いからギャンブラーたちの世界を覗くことになる。 躑躅森遥………『賭博生徒会』会計。 馬酔木白夜……『賭博生徒会』書記。

俺以外を見るのは許さないから

朝飛
BL
赤池凌平は、成瀬真介と出会い、緩やかに親交を深めてやがて恋人同士になるのだったが、時折違和感を抱いていた。  その違和感の正体が明らかになる時には、もう何もかも手遅れになってしまい……。 (女性と付き合うシーンもあります。) ※ネオページ、エブリスタにも同時掲載中。マイペースに更新します。