毒を食らわば皿までと【完結】

紫紺

文字の大きさ
34 / 68
第4章 執着

執着 6



 二日後、穗隆はアパートを出る。寮生活では家具や電化製品がほとんど不要のため、人に譲った他は売却済みだ。持っていく荷物は、自分のSUVで十分間に合った。

 ――――こんなでかい車、もう要らないな。父に買ってもらったものだし、処分するか……。

 全ての荷物を積み込み、車に乗り込もうとしたその時、馴染みある人影がやってきた。

「小林さん……」
「よお、皇子さ……じゃないか。まあいいや」
「見送りに来てくれたんですか」

 いつもバディを組んでいた小林だった。このところは、穗隆が真嶋の監視付きだったため離れていたが。それでも、愛知に配属されてからずっと、相棒として行動していた。

「見送りってほどのもんじゃないけど。ほら、これ、道中食べろよ」

 そう言ってコンビニの袋を渡す。中にはドリンクとおにぎりが入っていた。

「すみません……僕……」

 穗隆は目の前の景色が滲んでいくのがわかった。小林の顔も見ることができない。コンビニの袋に涙が落ちた。

「泣くなよ。全く……おまえな、いいじゃねえか。好きになった奴が容疑者とかさ、たまにあるみたいだぞ」
「ですが……」
「ま、相手が男ってのはびっくりしたけどな。インパクトはあったよ!」

 言いながら、小林は音を立てて穗隆の背中をたたく。暖かい手のひらは、痛みよりも優しさを穗隆に与えた。

「それと、一つおまえに言っておきたいことがあるんだ」
「はい。なんですか?」

 穗隆は鼻をすすりながら顔を上げる。小林は、いつになく真面目な顔になった。

「オレ、静岡行ったろ? そのあと、真嶋さんとも行った。あの、倉敷塁の同級生のこと、覚えているか? 庄司一馬っていう」

 名前は憶えていなかったが、その同級生のことは覚えている。穗隆も、どこかひっかかるものを感じていた人物だった。

「はい。覚えています」
「あいつな、塁を訪ねて、何度かこっちに来ているみたいなんだ」
「え……」

 それは新しい情報だった。穗隆は思わず前のめりになる。

「事件のあった日も、来てる可能性がある。今捜査中だけどな」
「そうなんだ……」
「だからってわけじゃないけど……。華山が犯人とは、まだ決まったわけじゃない。とオレは思ってる。姿を消したのは謎だけど」

 庄司について、小林や真嶋からの話でしか穂隆は知らない。塁の養父にしてもそうだ。
 小林は、庄司も塁の養父の犠牲者だろうと言っていた。それには穂隆も賛成だった。庄司と塁は、同じ被害者仲間ということになるのだが……。

 もしかすると、それ以上のなにかがあったのかもしれない。それが、今回の殺人事件とどう関わっているのか。
 まだ何もわかってはいないが、小林はなにかを掴んでいるようにも見える。

「ま、奴が姿を消したのは、しつこい愛人のせいかもしれないがな」

 いつものチャラいノリで、小林が目を細める。

「ええ! それは……酷いなあ。でも、あるかも……」
「ばぁか、マジになんなよ。まあ、そういうこともあるさ。じゃあ、オレもう行くよ」
「ありがとうございました。小林さんもお元気で……」

 小林は、今後も塁の事件を追っていくのだろう。逆に言えば、華山を追っていくのだ。穗隆はそれが羨ましかった。小林の細身の背中が視界から消えるまで、穗隆は車の横で見送っていた。

 ――――華山を探したい。このままでは済ませたくない。なぜ、あいつは僕のまえから姿を消したのか。知りたい。あの男が、殺人犯でもそうでなくても、関係ない。僕は、華山に……もう一度会いたい。

 華山が殺人犯でなければ、塁と関係していたという仮説も揺らぐ。しかし、それでは何故、姿を消したのかわからない。
 それでも、穗隆は彼に会うまで、勝手な憶測で憐れむのを止めようと思う。何か他に訳がある。そう考えることにした。

 ――――こんなことで、あいつを諦めてたまるものか。今度こそ、僕はあの男を追い詰める。そして……二度と離さない。

 車に乗り込み、エンジンをかける。静かなエンジン音が車を振動させると、穗隆はゆっくりとアクセルを踏み込んでいった。



 その後、事件は進展をみせず、いたずらに日々を重ねていく。穗隆は、島根の海岸近くの市で、刑事として再出発をした。

 華山の行方も一向につかめぬまま、いつしか穗隆は、富山の山奥へと導かれるようにして向かう。
 休みになると必ず富山まで車を飛ばし、しらみ潰しのように、いくつもある山道へ、一つ一つ入っていった。




感想 3

あなたにおすすめの小説

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

天然で優しいお母さんは最強かもしれない

三園 七詩
ミステリー
俺はある事を除けばただの高校生。 ごく普通の家庭に生まれた。 少し天然だけど優しい母さんと出張の多い父さんの間に生まれた。 一つ変わったことがあるとすれば幽霊が見えることだ。 怖い話も交えた日常ファンタジー風。 ホラーかミステリーか微妙なので一応ミステリーにしてあります。

豊臣の子

四谷軒
ミステリー
慶長19年(1614年)、方広寺鍾銘事件が起こり、豊臣家は刻一刻と、大坂の陣――亡(ほろ)びの道を歩んでいた。 豊臣完子(とよとみさだこ)は豊臣秀勝(秀吉の姉・ともの子。豊臣秀次の弟)と江(ごう)(秀頼の母・茶々の妹)の子であり、茶々の養女である。 完子(さだこ)は、夫の・九条忠栄(くじょうただひで)と共に、豊臣家を守ろうとしていたが、その折り、秀頼が乱行に興じていることを知る。 秀頼の乱行を止めるため、完子と忠栄はその乱行に興じる理由を探る。探っていくうちに、十年前の慶長4年(1604年)に、完子の九条家の嫁入りの前夜に起こった、完子の乳母の怪死事件に遠因があることに気づく。 乳母は、完子の嫁入りの宴に出席したあと、大坂城内の一室で怪死しており、その死体を発見したのが秀頼であった。 秀頼は乳母のことを好いており、十年後の慶長14年(1614年)、その怪死の謎を解く。解いた結果、秀頼は豊臣家の「秘密」――秀頼自身の出生の「秘密」に気づく。その「秘密」は秀頼を狂わせ、秀頼を乱行へと誘(いざな)っていく。 方広寺鍾銘事件の原因となった鍾銘も、狂った秀頼によって「いじられた」ものであり、こうして豊臣家は滅亡への道を突き進み、忠栄や完子の努力も虚しく、大坂の陣へと突入してしまう……。 【表紙画像】不明Unknown author, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

再生ホテルー館花琴音の事件簿ー

天咲琴乃 あまさき ことの
ミステリー
かつて聖堂や学び舎だった建物を再生した、 山あいの小さなホテル。 そこには、何かを終えた人間だけが辿り着くという。 元配信者で、現在は歯科衛生士として働く 館花琴音(たちばな ことね)は、 自分自身の心の整理のため、 そのホテルに滞在することになる。 静かな夜、ホテルでは 奇妙な「音」が聞こえ始める。 子どもの名前を呼ぶ声、誰かに似た話し方、 あるはずのない沈黙、拒絶された言葉―― それらはすべて、宿泊者自身が向き合うことを避けてきた過去だった。 琴音は探偵でも、裁く者でもない。 ただ、声と沈黙に関わってきた人間として、 彼らが“自分の音を聞く”のを邪魔しない。 再生とは、 許されることでも、元に戻ることでもない。 壊れたことがあっても生きていけると知ること。 全五話で描く、静かな心理ミステリー。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】学園ギャンブル

暗闇坂九死郞
ミステリー
頼まれると断れない性格の女子高生・吉高菜々子は、自称ギャンブラーを名乗る謎の男子高生・花屋友成と出会う。花屋の勝負強さに目を付けた吉高は、将棋部の体験入部で行われていると噂されているギャンブル対決に身を投じることになり……!? 【登場人物】 花屋友成………マッシュルームカットに眼鏡の謎の自称ギャンブラー。優れた頭脳と洞察力で相手のイカサマを見抜く。 吉高菜々子……お人好しのクラス委員長。花屋との出会いからギャンブラーたちの世界を覗くことになる。 躑躅森遥………『賭博生徒会』会計。 馬酔木白夜……『賭博生徒会』書記。

俺以外を見るのは許さないから

朝飛
BL
赤池凌平は、成瀬真介と出会い、緩やかに親交を深めてやがて恋人同士になるのだったが、時折違和感を抱いていた。  その違和感の正体が明らかになる時には、もう何もかも手遅れになってしまい……。 (女性と付き合うシーンもあります。) ※ネオページ、エブリスタにも同時掲載中。マイペースに更新します。