毒を食らわば皿までと【完結】

紫紺

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第6章 発露

発露 7



「小林さん、一馬が塁に会いに来ているって、言ってましたね。もう4年前の話ですが。その後、どうなったんですか? 捜査の方は」

 午後の談話室。小林が持ってきたドーナツは、悉く二人の胃に収まった。後はフリードリンクのコーヒーだけになり、二人は額を付ける勢いで話し込んでいた。

「うん。真嶋さんも庄司のことを気にしだして。でも、華山が絶妙なタイミングでいなくなったろ? そっちも放っておくわけにいかなくてさ」

 庄司一馬の不穏な動向。それが捜査本部にもたらされたのは、華山がいなくなった矢先だった。捜査本部でも意見は割れた。
 1度きりの山狩りも不発に終わり、穗隆が去ったことで人員も減ってしまう。


「真嶋さんは、少ない人員で仕方なくて。一馬のことは、静岡に任せたんだよ」

 もし真嶋が、いや、小林でも風間でも、静岡に出向いていれば。もっと早く事件は解決していたかもしれない。
 華山の失踪は、一馬への疑惑を妨害した格好になった。これは偶然なのだろうか。穗隆には答えがわからない。

「それでもオレ、異動の前に真嶋さんにお願いして、一馬に会いに行ったんだ」
「ほんとですか。どうでしたか?」

 小林は1度配置換えで担当から外れていた。通常のローテーションによる異動だが、事件をそのままにするのはどうにも気持ち悪かった。特に自分が怪しいと思った庄司を、全く調べることが出来なかった。
 それを真嶋に訴えると、あっさり静岡行きを許された。穗隆が山登りにご執心だった時期、事件から2年が経った春だ。

「一馬はオレの事を覚えていたよ。それでオレと会ったあと、静岡県警が自分のことを調べ出したのに、不満を言ってた。オレが何かチクったのかって」

 まだ穗隆が捜査本部にいたころ(華山に夢中になっていたころだ)、小林は少年課の刑事と静岡に行っていた。そこで、倉敷が小児愛者であることを一馬から聴取した。

『僕は捜査に協力したはずなのに、なんで警察に疑われるんですか。大体塁は友達だし、倉敷氏を糾弾することはあっても、塁を殺したりなんかしないですよ』

 久しぶりに会った小林に、一馬は不快感をあらわにしてそう詰め寄った。

『いやあ、そんなことになってるとはね。オレは何も言ってないよ。なんかこっちで掴んだんじゃない? 例えば、君も倉敷の被害に遭っていたとか』

 この時は何の証拠もなかった。だが、小林は庄司一馬の風貌がどことなく塁と被るのに気付き、その可能性もあると考えていた。つまり、カマをかけたのだ。

『え? なんのことですか。僕は違います。確かに倉敷の教え子ですが、声をかけてもらってませんよ』

 その時はあっさり否定された。

『じゃあ、塁のところに行ってたって話は?』
『それは、まあ、敢えて言いませんでしたが。行ったのは1度だけですよ。あいつが住み込みじゃなくて、一人暮らし始めたって言うから。でも、一人暮らしじゃなかったですけどね』

 高校卒業した春休み。一馬は地元の大学に進んだので、始まるまでは暇だった。塁の様子を見に、名古屋へ出かけたのだという。

『バンドマンってツアーとかに出るんで、その間は部屋が空くでしょ。塁は、留守番しながらそこに住まわせてもらってたんです。なんかもう、ヒモみたいな感じでした』

 今まで、塁に関して嫌悪感を見せたことがなかった一馬だが、その時、初めて表情を歪ませた。


「小林さん、その住まわせてもらってた部屋って、まさか」

 穗隆がたまらず口を挟んだ。まさかとは思うが、それが華山の部屋だったらと思ったのだ。

「安心しろ、華山のとこじゃない。親しくしてた例の二人だよ。その二人の部屋を中心に、あちこちで寝泊まりしてたんだ。そんなこといつまでも続くわけないのにな」

 そうだった。そのあたりのことは、自分が捜査本部にいた時にも判明してたじゃないか。穗隆はまた俯いて、右手で頭を軽く叩いた。

「でも、華山には会ったって言ってた」




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