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第6章 発露
発露 11
一馬は倉敷になじられた。おまえのせいで塁がいなくなった。あいつは私のものだったのにと。まさか、殺したのはおまえじゃないだろうな? 激昂し、倉敷は一馬を追い詰める。
――――――その時、僕はわかったんです。この世では先生と結ばれない。この人は、いつまでも塁の亡霊に取り憑かれるばかりだと。楽になりたい。先生を殺して僕も死のう。そう決めました。
庄司一馬は、倉敷の家に、ネットで購入したサバイバルナイフを持って訪れた。出迎えた倉敷は、不機嫌だったが彼を迎え入れる。
一馬に服を脱ぐように命令をして、自らも裸になった。その時、一馬に刺された。倉敷は真っ裸で殺された。
――――――先生の血が、水道の蛇口から溢れる水のように流れました。僕の手も体もあっという間に血で染まって。
きっと、もう助からないと思いました。苦しげに顔をゆがめ、何か叫びながら、先生は床に崩れ落ちていきました。僕は何故かとても腹が立って、何度も、何度も刺しました。
一馬は大胆にも、そのあと、倉敷家のシャワーで血を洗い、何食わぬ顔で帰宅する。そして、長い遺書を書いて自殺した。倉敷を刺したナイフで首を割いた。倉敷の殺害現場と同様、部屋には大量の血が飛び散り、床には真っ赤な水たまりができていたという。
小林を見送るため、穗隆は病院のロビーまで下りてきた。病院内では既にパジャマではなく、リハビリ用のスウェットスーツを着用している。
まだ、勝手に出歩くことは出来ないが、正面玄関までなら問題なかった。
「小林さん、色々ありがとうございました。こんなことしか言えない自分が腹立たしいですが、本当に感謝しています」
深々と頭を下げる穗隆に、小林はまんざらでもない顔をする。
「へへぇ。おまえが鳴り物入りで配属された時、オレは教育係を任されてウンザリしてたんだ。面倒な奴を回されたって。でも、よくよく話を聞くと、ただのお坊ちゃまじゃなかったからな。ちょっと同情してた。
オレのからかいにも全然めげないし、楽しかったよ。に、してもだ。華山のことは、予想を遥かに超えた場外ホームランだったけどな」
「小林さん、そこのところは勘弁してください」
華山のことを持ち出されると、穗隆は何も言えない。弱い抗議の言葉を口にするが、頬が熱くなるのはどうしようもなかった。
「まだ、好きなんだな、おまえ……」
「あ、えっと……」
「いいよ、別に。事件が片付いたんだから、あいつ、ひょっこり戻ってくるかもな。ミュージシャンだったろ? まだアラサーだし、諦めてないかもしれんぞ」
ミュージシャン。そうだ。華山はまだプロではなかったが、ギタリストとしてそれなりに名を馳せていた。このまま埋もれるのは耐えられないだろう。穗隆は華山のつま弾くギターの音色を思い出す。
「そうですね」
「で、退院したらどうすんだ? 行くとこあるのか?」
にやけ顔を真顔に戻し、小林が尋ねた。穗隆は当面、東京に拠点を置くつもりだ。ここでまずは仕事を探さなければならないだろう。借りるアパートは、朱里に頼んで既に契約済みだ。
「はい、このまま東京にいます。それと、富山に行こうと思っています」
「ああ? もう山に登るのか!?」
「いえ、さすがにそれは。まだ体に負担のかかる運動は、医師から止められていますし。僕を救助してくれた人に、お礼の挨拶に行くんです。その人が見つけてくれなかったら、間違いなく死んでましたから」
富山と長野の県境。穗隆が見つかったのはその山中だ。たまたま通りかかった登山家、望月という男が、既に意識不明の穗隆を発見した。
彼は元山岳救助隊の一員で、迅速な対応が穗隆の命を取り留めたと言っていい。救助の様子は、穗隆の回復後にやってきた富山県警が話してくれたが、本人には会えずじまいだった。
「なるほどね。まあ、気を付けてな。ライン交換したし、いつでも連絡していいかんな」
「はい、ありがとうございます!」
小林はあの日と変わらない仕草でにやりと笑うと、足取り軽く駐車場へと歩いていく。穂隆はその後姿を眺めながら、ふうっと一つ息を吐いた。
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