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第7章 リスタート
リスタート 2
――――段ボール3箱。何を入れてくれたんだろう。
ガランとした部屋に入ると、無造作に積まれた段ボール箱が穂隆を出迎えた。島根で彼が住んでいた寮から、送られてきたものだ。お礼の手紙を出さないとな、などと考えながら箱を開けた。
当時自分が使っていた食器やら、洗面道具が入っている。他にはパソコン、洋服などだ。家具や電化製品は寮に備えられていたものを使っていたので、個人持ちはこの程度だ。布団も業者から借りていた。
――――ま、今は夏だし。なんとかなるか。
それでも、あとで家具と電化製品はどうにかしないと。様々なことを思い巡らしながら、段ボール箱を探る。通帳や印鑑を入れていた鞄も入っており、穗隆はどきどきしながら不足はないか確認した。
――――あ、これ。
段ボール箱の底の方に、見覚えのあるタオルが敷かれていた。まるで、割れ物防止の緩衝材のように置かれたそれを引っ張り出す。
「1年半ぶりだな」
華山の部屋にあった、ジギーズのライブタオルだ。深紅に黄色で目立つようにプリントされている。
「洗わなきゃよかった。いや、そしたらビールで黴だらけか」
それでも穗隆は、そのタオルに顔を埋めてみる。
――――めっちゃ情けない……。
なんだか泣けてきた。
――――そう言えばタオルか。一馬は塁を殺した後、そのタオルをどうしたのかな。華山が拾ってたりして。
持っているタオルに目を落とし、穗隆は自分で吹き出した。そんなことがあるわけない。穗隆は立ち上がり、タオルを何もないクローゼットにかけた。
そこには備え付けのタンスもあったので、今持っている洋服類や細々としたものを、全てクローゼットに収納した。
「とりあえず、生活できるようにしなくちゃ」
1年以上寝たままではあったが、何割かの給料は支払われている。少ないなりに退職金もあったので、入院費を差し引いても当座困ることはなかった。
穗隆が意識不明の間のデータは、奇跡的に目覚めたこともあって、貴重な資料となった。その全てを提供することで、皇樹家が立て替えた治療費を、完済することができていた。
それでも穗隆は車を手放した。最後に山へ入った時、いつものように穗隆は富山まで車で来ていた。SUVではなく、買い替えた大衆車だ。
それを富山県警が見つけ、預かってくれていたのだが、目覚めてから売却した。東京で住むなら無用の長物だ。いつ仕事が見つかるかわからない。余計な出費を抑えたかった。
駅前の家電量販店や家具屋、それに銀行、スーパーを徒歩で歩きまわり、アパートに帰りついたのは、もう6時を回っていた。最後に寄ったコンビニで買った弁当を、ビールとともに流し込む。
「あー、もうやっぱり車売るんじゃなかった!」
そう一人で叫んでみたが、何も返ってこない。穗隆は病院で着ていたスウェットスーツに着替えると、何もない床に寝ころんだ。
ベッドや布団は明日来るので、今夜はこのままだ。幸い季節はまだ残暑厳しいころなので、寒さは問題ない。それどころか、有難いことにエアコンが備え付けられている。
パソコンもネット契約していないので、ただのデータ保存箱だ。それでも自分が歩いた山の情報を、見ることができた。スマホのマップと見比べながら1年半前までに自分が残した履歴を確認した。
――――落ち着き次第、富山に行こう。まだ煩わしい手続きが残っているけど。とにかく僕は生きている。あいつを探すことが、まだ出来るんだ。
毎日のリハビリに精を出していたとしても、今日は随分と歩いた。それにずっと飲んでいなかったアルコールが、すぐに酔いを呼ぶ。穗隆は、床に背骨が当たるのも気にせず爆睡した。
翌日から、穗隆は考えられるやるべき事を、一つ一つこなしていった。ネットを繋げたことで人材会社に登録したり、お礼のメールを送ったりも可能になったので、仕事は格段に速くなった。
退院後1週間が経ったころには、冷蔵庫などの家電や、ベッドといった家具も一通りそろい、ようやく人並みの生活ができるようになった。
「あ、真嶋さんから返信着てる」
真嶋は、穗隆が意識を取り戻した後、病院に来ることが叶わなかった。だが、小林からお見舞いを受け取っていたため、お礼のメールは送っていた。
真嶋は自分が華山に嫌疑をかけたため、穗隆を迷路に彷徨わせてしまったのかもと詫びていた。今は、事件で忙しく時間がないが、いつかまた会おうと結んでいた。
――――真嶋さん、こんなこと書いて寄越して、上に見つかったらヤバいんじゃないのかな。
アドレスは所轄のドメインだ。職場のPCを使っているのは明白だった。
そしてもう1件、返信メールが届いていた。富山の登山家、望月だ。
お礼になど来なくても大丈夫だが、この日なら空いている。話を聞きたいのであれば、歓迎する旨が書かれていた。
――――よし。こっからだ。
穗隆は早速、返信した。その日は3日後。穗隆の胸は高鳴った。
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