毒を食らわば皿までと【完結】

紫紺

文字の大きさ
52 / 68
第8章 ご褒美

ご褒美 2



 穗隆は準備していた東京土産と、登山家なら欲しいであろうブランドのグッズを、望月に手渡した。
 遠慮する仕草をしたが、穗隆は強引に押し付ける格好で受け取ってもらった。

「矢吹さんは、この辺りで倒れていたんですよ」

 救助した時のことを教えて欲しい。メールでそうお願いしていたので、望月は地図を用意してくれていた。穗隆はモバイルを取り出し、マップと照合する。
 望月は、消防署を定年退職した後も、ボランティアの救助隊員を務めていた。時間のある時は、山歩きをしながら訓練を兼ねたパトロールをしていると言った。

「この辺りは道が複雑でね。迷う人が多いんですよ。矢吹さんは、頭や腕に怪我をしていたので。多分ここらへんで滑落して、こちらまで歩いてきたんだと思います。で、力尽きた」

 望月は、地図を指差して説明する。

「そうですか」

 穗隆は見せられたそれに首を傾げる。自分が入った山道と離れた場所だ。しかも、転落してからのことは覚えていなく、歩いて山道に出たなんて考えられなかった。

「望月さんは、僕をこの道で見つけたんですよね?」
「そうですよ。まあ、道っていっても獣道みたいな狭いところで。登山道じゃなかったですよ」

 確かに、穗隆は登山道から、そういった獣道を選んで登っていたのだ。通常のルートを登ったところで、華山の言う、山小屋が見つけられるはずもない。
 穗隆は山に入ることを、麓の救助隊には知らせていた。だが、遭難が発覚する前に、望月により発見されたのだ。
 もし、遭難がわかってからのことなら、季節はまだ冬のような寒さだ。生きて見つかることはなかっただろう。

 ――――でも、やっぱり変だな。医者の話では、頭を打って意識不明になったのだと。そんな状態で、道に出るまで歩けるだろうか……。

「あの、望月さん。あのあたりに、山小屋なんてありませんでしたか?」

 その謎はまずは放置して、穗隆はもう一つ、聞きたかったことを持ち出した。

「山小屋ですか? こっちの沢には営業中のがありますよ?」
「あ、いえ、人知れずみたいな山小屋です。使われてなくても構いません」
「ええ? うーん、私は、あのあたりの道が通じているところ、全て知ってるつもりですが、小屋のようなものは見たことがないですね。聞いたこともないと思います」
「そうですか……ありがとうございます。変なこと聞いてすみません」
「いえいえ。では矢吹さんは、山小屋を探しておられたんですか?」
「ああ、はい。そうです。友達が昔、そこに住んでたと言うので。興味本位でした」

 適当に返した。

「なるほどねえ。住んでいたほどの山小屋でしたら、なおさら思い当たりません。まあ、またどこかで見かけたら、お知らせしますよ」
「本当ですか? 有難いです。医者からまだ登山は禁じられていて」
「それはそうですよ。また遭難するとみんなが迷惑しますから、慎重にしてくださいね」

 救助隊員らしいことを言われ、穗隆は恐縮するほかなかった。それにしても、なんだか解せない。自分が入った山道から推測すると、転落したのはもっと東のはずなのだが。

「望月さん、この辺りのことはご存じですか? ここは勾配が急だと思うんですが」

 諦めきれない穗隆は、マップから推測した位置を地図上で指さした。

「はあ、ここらは道なんかないでしょう。勾配が急というか、ほぼ崖ですよ? 私らも危険だから行かないですね」

 そうまで言われると、穗隆もこれ以上聞くことは出来なかった。望月の救助隊時代の逸話や苦労話を一通り聞き、お開きの時間となった。

「ああ、そうだ。忘れるところだった」

 立ち上がり、再び握手をしたその時だった。望月は唐突に言うと、ショルダーバックに手を入れ、小さなジップ袋を取り出した。

「これ、ずっと渡さなければと思っていました。まあ、何でもないものだから、必要ないかもだけど。助けた時、矢吹さんが握っていたんです」
「はい……あっ」

 ――――嘘だろ……。

 望月が差し出した右手のひらを見て、穗隆は絶句した。袋に入っていたのは確かに見覚えのある、三角形の黒いギターピックだった。



感想 3

あなたにおすすめの小説

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

天然で優しいお母さんは最強かもしれない

三園 七詩
ミステリー
俺はある事を除けばただの高校生。 ごく普通の家庭に生まれた。 少し天然だけど優しい母さんと出張の多い父さんの間に生まれた。 一つ変わったことがあるとすれば幽霊が見えることだ。 怖い話も交えた日常ファンタジー風。 ホラーかミステリーか微妙なので一応ミステリーにしてあります。

豊臣の子

四谷軒
ミステリー
慶長19年(1614年)、方広寺鍾銘事件が起こり、豊臣家は刻一刻と、大坂の陣――亡(ほろ)びの道を歩んでいた。 豊臣完子(とよとみさだこ)は豊臣秀勝(秀吉の姉・ともの子。豊臣秀次の弟)と江(ごう)(秀頼の母・茶々の妹)の子であり、茶々の養女である。 完子(さだこ)は、夫の・九条忠栄(くじょうただひで)と共に、豊臣家を守ろうとしていたが、その折り、秀頼が乱行に興じていることを知る。 秀頼の乱行を止めるため、完子と忠栄はその乱行に興じる理由を探る。探っていくうちに、十年前の慶長4年(1604年)に、完子の九条家の嫁入りの前夜に起こった、完子の乳母の怪死事件に遠因があることに気づく。 乳母は、完子の嫁入りの宴に出席したあと、大坂城内の一室で怪死しており、その死体を発見したのが秀頼であった。 秀頼は乳母のことを好いており、十年後の慶長14年(1614年)、その怪死の謎を解く。解いた結果、秀頼は豊臣家の「秘密」――秀頼自身の出生の「秘密」に気づく。その「秘密」は秀頼を狂わせ、秀頼を乱行へと誘(いざな)っていく。 方広寺鍾銘事件の原因となった鍾銘も、狂った秀頼によって「いじられた」ものであり、こうして豊臣家は滅亡への道を突き進み、忠栄や完子の努力も虚しく、大坂の陣へと突入してしまう……。 【表紙画像】不明Unknown author, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

再生ホテルー館花琴音の事件簿ー

天咲琴乃 あまさき ことの
ミステリー
かつて聖堂や学び舎だった建物を再生した、 山あいの小さなホテル。 そこには、何かを終えた人間だけが辿り着くという。 元配信者で、現在は歯科衛生士として働く 館花琴音(たちばな ことね)は、 自分自身の心の整理のため、 そのホテルに滞在することになる。 静かな夜、ホテルでは 奇妙な「音」が聞こえ始める。 子どもの名前を呼ぶ声、誰かに似た話し方、 あるはずのない沈黙、拒絶された言葉―― それらはすべて、宿泊者自身が向き合うことを避けてきた過去だった。 琴音は探偵でも、裁く者でもない。 ただ、声と沈黙に関わってきた人間として、 彼らが“自分の音を聞く”のを邪魔しない。 再生とは、 許されることでも、元に戻ることでもない。 壊れたことがあっても生きていけると知ること。 全五話で描く、静かな心理ミステリー。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】学園ギャンブル

暗闇坂九死郞
ミステリー
頼まれると断れない性格の女子高生・吉高菜々子は、自称ギャンブラーを名乗る謎の男子高生・花屋友成と出会う。花屋の勝負強さに目を付けた吉高は、将棋部の体験入部で行われていると噂されているギャンブル対決に身を投じることになり……!? 【登場人物】 花屋友成………マッシュルームカットに眼鏡の謎の自称ギャンブラー。優れた頭脳と洞察力で相手のイカサマを見抜く。 吉高菜々子……お人好しのクラス委員長。花屋との出会いからギャンブラーたちの世界を覗くことになる。 躑躅森遥………『賭博生徒会』会計。 馬酔木白夜……『賭博生徒会』書記。

俺以外を見るのは許さないから

朝飛
BL
赤池凌平は、成瀬真介と出会い、緩やかに親交を深めてやがて恋人同士になるのだったが、時折違和感を抱いていた。  その違和感の正体が明らかになる時には、もう何もかも手遅れになってしまい……。 (女性と付き合うシーンもあります。) ※ネオページ、エブリスタにも同時掲載中。マイペースに更新します。