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第9章 聖夜
聖夜 6
それでも女性の援助が途絶えると、途端に住むところに困窮する。そんな時は山小屋にこもったという。
一人で全ての時間を費やすのも悪くない。そこで、自分のための作曲に没頭する。その時に作った曲たちが、今の演奏活動を支えていた。
「あんたが山にやってきたのは、ちょうど山籠もりしていた時期だった。驚いたよ。派手な音がして、人が崖を転がったのに気が付いた。見に行くと、あんたが下で伸びてた」
華山が失踪してもう二年も経っている。穗隆が捜査本部を外れたのは、ネット掲示板で知っていた。そこには、容疑者との関係を疑われてと、内部の人間しか知りえない情報まで載っていた。
嘘と真を織り交ぜ掲載されているそこは、華山の主な情報源だった。
「愛おしかったよ。こんなところまで、俺を探し求めて来たのかと思うと。刑事の執念なんかじゃないと、何となくわかったし」
その時、ようやく華山は、自分が誤解していたことに気付いたという。綺麗に整えられた髪型や、手入れのされた指。肌もあの時と同じように綺麗だった。
「俺に会いに来たんだと、そう思った」
穗隆は頬を赤らめた。彼は確かに、山を登る度、身綺麗にしていた。いつ華山に再会してもいいように。華山にもう一度、振り向いてもらうために。
「それで、あんな真似を?」
華山は頷く。穗隆の手に握らせたピックのことだ。彼はそれを穗隆に持たせ、麓の、望月が毎日出歩く道まで担いでいった。
いつの間にか穗隆は体を折り、華山の座る太腿に頭を乗せていた。華山はその髪を指で梳く。
「目が覚めたら、俺がここに居たことがわかるように。ご褒美だよ。こんな誰も知らない山小屋にやってきた、あんたへの。まさかそれから何年も意識不明になるとは、思いも寄らなかったからな」
華山はその後すぐ山を下りる。まだ警察に見つかりたくはなかった。再びヒモ生活を始め、そのなかで、穗隆が意識不明になっていることを知った。
「ずっと気にしてた。でも、生きてることは間違いなかったから。もしかして、俺がキスしたら目を覚ますかもと思ったりしたなあ。それで、病院に忍び込もうかとも考えた」
「そうなのか?」
穗隆は乗せていた頭、首を捩じって華山の方へ向ける。華山は、髪を梳いていた指で穗隆の唇をなぞり、そのまま口の中へと差し込んだ。
「はた指をひれふ」
笑いながら、穗隆はその指を舌で転がす。
「けど、行けなかった。交通費も馬鹿にならないからな。その頃は京都にいたかな」
穗隆は病院で目を覚ましたとき、華山の声を聞いたことを思い出した。
『これは夢だ。目を覚ませ』
華山は行っていないと言うが、もしかしたら……。
穗隆が目覚めたことが、小さなニュースとして報じられた。1年以上も意識不明だった人間が目覚め、しかも後遺症もなさそうなのだ。
それはしばらくの間、ツイッタなどのSNSを賑わせ、華山の目にも触れた。安堵したのだと息をついた。
そして……その目覚めを待っていたかのように、事件が解決した。庄司一馬が告白文を残して自殺した。
「俺は、姿を消してからも事件を追っていた。ヤツのことは塁に紹介されていて、当然名前も憶えていたし、気になってたんだ。あのライブハウスで、俺はこいつが何度か塁と一緒にいるところを見ていた。だから、もしかすると俺を嵌めたのは、こいつかもと疑っていたんだ」
一馬が自殺したことで、華山は確信した。あの夜、塁と一緒にいたのはこいつだったのだと。動機はわからないが、塁を殺し、華山をその犯人に仕立てようとした。
そしてこれまた意味不明だが、一馬は結局、塁の親父も殺した。
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